横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ダンサー イン Paris

「ダンサー イン Paris」En coprs
監督:セドリック・クラピッシュ
主演:マリオン・バルボー


<あらすじ>
 パリ・オペラ座で念願の主演を務めるエリーズは、幕間に恋人の浮気を目撃してしまい、ショックから舞台で負傷してしまう。最悪の場合、二度と踊れなくなるかもしれないという診断を受ける。子どもの頃からバレエ一筋だったエリーズには、他の道は考えられなかった。
 かつてのバレエ仲間で、10代でバレエを断念したサブリナに再会すると、今は女優を目指していた。彼女の恋人ロイクは料理人で、ブルターニュで仕事をするという。料理アシスタントとして彼らに付いて行ったエリーズだが、滞在先でコンテンポラリーダンスのグループと出会う。

 

 この映画を一言で説明すると、挫折したバレリーナの再生の物語。
 実家に帰ると弁護士の父親(ドゥニ・ポダリデス)が「だから大学に行って法律を学んでおけばよかったのに」と説教たれる。ウザい以前に「それが娘にかける言葉かよ」と腹が立つ。というか、どこの国も親父の説教って同じなのね。弁護士で喋るのが達者そうなのに、娘のエリーズには「愛してるよ」と言ったことすらない(娘曰く)、ある意味不器用な父ちゃん。

 再生のシンボルともいえる場面がある。
 コンテンポラリーダンスの振り付けの中に、男女ペアで踊るものがあるが、男性ダンサーが椅子を相手に練習していると、家主のジョルジェットが「エリーズと練習すれば?」と提案。女性役は”死んでいる”という設定で、脱力して横たわるエリーズを男性ダンサーが動かすと、弾みで勢いよく足がバーンと動くのだ。まるで生き返りのように。
 この練習がきっかけとなり、彼女もダンスグループの練習に参加するようになる。


 私はバレエはまったくの門外漢で、せいぜいドキュメンタリー映画「エトワール」を見た事あるぐらい。あれもパリ・オペラ座に密着取材した作品だ。
 ダンサー達の鍛えられた身体とトレーニングの様子にため息が出る。あの動きを生み出すまで、どれほど地道な筋トレと練習が必要だったのか。白眉はダンスグループのパリ公演の場面。

 振付師のホフェッシュ・シェクター、若手ダンサーも本人役で出ている。主演のマリオン・バルボーは本職のバレリーナなのだが、映画初主演と思えないほど、演技が素晴らしい。「踊れる俳優よりは、演技できるダンサーを起用したい」という監督の意図で、こんなキャスティングになったらしい。冒頭の「バヤデール」を踊る場面など、まさにバレリーナでなければここまで撮れなかっただろう。

 なんでバレエ映画?と思いきや、クラピッシュ監督はパリ・オペラ座のエトワール、オーレリー・デュポンが引退した際に、ドキュメンタリー映画を撮っていた。

 セドリック・クラピッシュといえば、かつての常連ロマン・デュリスのように、同じ俳優を起用する。「おかえり、ブルゴーニュへ」にも出ていたロイク役のピオ・マルマイと、理学療法士ヤン役のフランソワ・シヴィルは、本作ではお笑い担当。

 

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