横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ドラマ メグレ警視

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 ジョルジュ・シムノン原作のミステリを、英国ITVでドラマ化。主演は「Mr.ビーン」、「ジョニー・イングリッシュ」などで知られるローワン・アトキンソン。俳優というかコメディアンの印象が強いアトキンソンを起用するとは、このキャスティング考えた人、すごいな!

  AmazonPrimeで視聴。今のところ、シーズン1とシーズン2で2話ずつ制作されている。

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シーズン1
・「Maigret Sets a Trap」 
 原作『メグレ罠を張る』(早川書房
・「Maigret's Dead Man」 
 原作『メグレと殺人者たち』(河出書房新社

シーズン2
・「Maigret's Night at the Crossroads」 
 原作『メグレと深夜の十字路』(河出書房新社
・「Maigret in Montmartre」  
 原作『モンマルトルのメグレ』(河出書房新社

 

 1950年代のパリの街を再現するため、ハンガリーで撮影したという。でも、一部は本当にパリで撮影したのでは?と思われる場面もあった。「オルフェーブル河岸」と呼ばれるパリ警視庁の辺りとか(実物と比較しないと何とも言えないけど)。

 ローワン・アトキンソンのようなコメディアンが重厚そうなメグレを演じるのって、おまけに台詞が英語だし、どうなんだろうと不安に思っていたけれど、結構良かった。新聞の文字などはさすがにフランス語のまま。ところどころ、「Police Judiciaire(司法警察)」のような言葉はフランス語っぽく発音される。

 思っていたより雰囲気が明るかった。台詞がフランス語から英語に訳されたのと、現代的に明るくカラーで撮ったからなのではと個人的には思う。原作のじめじめ感があまりない。

 原作のメグレ、あとフランスで実写化されているメグレは、もっと体格が良い。アトキンソンだと細くて健康的に見える。シャーロック・ホームズの方だと兄マイクロフトとか、ケネス・ブラナー版エルキュール・ポワロとか、原作や過去の映像作品でぽっちゃり体型の設定だったキャラクターが、今は皆スリムなんだよね。現代の健康志向を反映しているのか、あるいはそういう体型の俳優を見つけるのが大変なのか。


 フランスでは、メグレはすでに何度か映像化されている。私が過去に見たのはジャン・ギャバン主演の映画で、モノクロだった。犯罪事件を扱うので仕方ないのだが、どよーんと重苦しい雰囲気だった記憶がある。フランス語をやっていてミステリを読む人間なのに、いまいち食指が動かなかったのは、その影響もあるかもしれない。和訳はいくつか読んだんだけれどね。終戦後だし、男女関係はじめじめしているし、なんだか暗い。むしろ、イギリスのユーモアあふれるカラッとしたミステリに惹かれた。

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 フランスで実写版メグレの「決定版」と言われるのは、ブリュノ・クレメール主演のドラマだ。1990~2000年代にかけて、54作品がドラマ化されている。DVDで日本語字幕版もある。こちらは見た人の評価が高いので、いつか見てみたいな。全部揃えるのは大変なので、テレビか動画でまとめて放送されないかなあ。

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 2021年現在、フランスではパトリス・ルコント監督がジェラール・ドパルデュー主演で、メグレの映画を撮影しているという。タイトルは「Maigret et la jeune morte」。以前、ダニエル・オートゥイユで撮るという話を聞いたんだが。体型はメグレのイメージと合うんだけど、ドパルデューが70代なので、メグレにしてはちょっと年が行き過ぎかなという気もする。

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【追記  2023年】

 パトリス・ルコント監督、ジェラール・ドパルデュー主演の映画は、日本でも公開された。

iledelalphabet.hatenablog.com


【自分用メモ】
 ジョルジュ・シムノンは、犯罪学者エドモン・ロカールの講演を聴いている。実際の犯罪捜査など、リサーチしていたのだ。今回のドラマでも鑑識のムルスが登場し、科学捜査らしきものが見られた。