横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい

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シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい」Edmond
監督:アレクシス・ミシャリク
出演:トマ・ソリヴェレス、オリヴィエ・グルメ


 1897年のパリ。若手劇作家エドモン・ロスタン(トマ・ソリヴェレス)はスランプに陥り、作品を書けなかった。旧知の大女優サラ・ベルナールの口添えで、俳優コクラン(オリヴィエ・グルメ)に会いに行く。彼の主演作を依頼されるが、締切はおそろしく短いわ、キャスティングはゴリ押しされるわ、無茶ぶりの連続。友人の俳優レオは衣装係のジャンヌに恋をしていて、エドモンも巻き込まれる。果たして無事に「シラノ・ド・ベルジュラック」は上演できるのか――。

 

 昨年の劇場公開を見逃し、AmazonPrimeでようやく視聴。

 映画冒頭の1895年、そしてその2年後の1897年は、パリにも近代化の波が訪れ、彼方にはエッフェル塔がそびえ、街ではリュミエール兄弟の映画が上映される。それと対比すると、エドモンの詩劇が古臭く感じられてしまう。

 ……ではあるが、<ムーランルージュ>の場面も出てくるなど、観客としては19世紀末のパリの街が見られて、とにかく嬉しい!楽しい!

 

 エドモン・ロスタンの「シラノ・ド・ベルジュラック」といえば、演劇史上に残る名作で、舞台のみならず何度も映画化された作品。その創作の裏側を「こうだったのでは?」という想像を交えて描いている。以前、フランスが誇る劇作家モリエールを描いた映画「モリエール 恋こそ喜劇」があったけれど、それを思い起こさせる。あれもまた、有名になる前の若きモリエールの創作の裏側を描いていた。

 ジャンヌとの恋文のやり取りは、「シラノ」のロクサーヌの恋文と重なるし、コクランとのやり取りは「シラノ」の台詞に反映されている。「シラノ」を見たことがある人なら、「あれ、この台詞って……?」となるはず。

 第五幕の場面では劇場の舞台セットを離れ、実際に修道院の庭にある大樹の下で撮影しているのが良い。昔見たジェラール・ドパルデュー版「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい」を思い出す。

 

 この映画を見た動機は「動いて喋っているサラ・ベルナールを見たい!」というもの。映画の中では50歳近い頃で、既に大女優として地位を築き、海外巡業も行っていた。この映画を見て「サラ・ベルナールの出演作って、エドモン・ロスタンが書いていたんだ!」と気づき、手元の「サラ・ベルナールの世界」展のカタログを引っ張り出した。確かに、冒頭の詩劇だけでなく「鷲の子(レグロン)」も書いていた。

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 ちなみに、カタログにはコクランの息子(やはり俳優)の写真も載っている。父親の方をコクラン・エネ(aîné)と称し、息子の方をコクラン・カデ(cadet)と称している。

 もう少し若い頃のサラ・ベルナールを描いた映画、ないかしら。脇役でなく、もう少し出番が多い形で。

 同時代の有名人としては、他に劇作家ジョルジュ・フェドー、ジョルジュ・クールトリーヌ、たまたまパリを旅行中だったロシアのアントン・チェーホフも登場する。


 キャストについて。
 主演のトマ・ソリヴェレスは「最強のふたり」に出ていたとあるが、覚えていなくて確認したら、娘のボーイフレンド役だった。ジョルジュ・フェドー役も兼ねている監督アレクシス・ミシャリクは、「サガン」の夫ドニ役。ジャン=ピエール・ジュネ作品の常連ドミニク・ピノンが舞台監督役で出演。機知に富み、シラノのヒントを与えてくれた<カフェ・オノレ>の主人役のジャン=ミシェル・マルシアルが素晴らしい。

 エンディングで、舞台や映画でシラノを演じた歴代の俳優の映像が流れる。最後に、ジェラール・ドパルデュー版シラノの映像で締めくくる。「シラノ」はドパルデューの当たり役で、代表作の1つ。今だと「お騒がせセレブ」になってしまったが、以前は名演技で観客を魅了していたのだ。

 ちなみに、映画ではクリスチャン役がヴァンサン・ペレーズだった。この世代のフランス映画の美男子俳優代表で、後にジェラール・フィリップの「花咲ける騎士道」のリメイクにも主演した。

 

 

有名になる前の劇作家モリエールの若き日を描いている。 

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同じような形式で、オペラ「フィガロの結婚」の原作を書いた劇作家ボーマルシェを描いた作品 

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