横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

メグレと若い女の死

「メグレと若い女の死」Maigret
監督:パトリス・ルコント
主演:ジェラール・ドパルデュー


 1953年のパリ。モンマルトルで、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の刺殺体が発見される。血で真っ赤に染まったドレスには執拗な刺し傷があった。死体のそばに所持品もなく、目撃者もいない。彼女が誰なのか、どんな女性だったのかを知る人もいない。捜査をするメグレ警視にとって、唯一の手がかりは、高級だが古いデザインのドレスだけだった。

 同じ頃、メグレは地方からパリに出てきたベティという若い女性と出会う。

 


 ジョルジュ・シムノンの小説『メグレと若い女の死』の映画化。映画公開に合わせて、2月に新訳も出た。本当なら、先に読んでおいても良かったのだが、この冬はとてもそんな時間がなかった。メグレはだいぶ前に何冊か読んだけど、この作品は読んだ覚えがない。なので、原作と映画の比較はできない。

 あくまで映画だけの感想だけれど、やっぱり、フランス語を喋っているメグレはええのお~。体格も、原作通りじゃ。

 以前、ローワン・アトキンソン版のメグレを見た(こちら)。あれはあれで悪くなかったけれど、台詞は英語だし、肝心のメグレがスリムだったし、原作を多少でも知っている人には違和感があっただろう。

 メグレといえばパイプがトレードマークだが、冒頭の健康診断で禁煙することに。紙巻タバコを前に「cigarette」という単語が出てきたけど、字幕はなぜか「葉巻」(確かそうだったと思う)で「えっ!?」と驚いた。最後の方で「パイプはこうやってふかすんだ」と部下に手本を見せ、そこでようやくパイプをふかす、いつものメグレの姿が見られた。

 この映画に限らないけど、1970年代以前が舞台の映画って、とにかく皆タバコを吸うんだよね。あと、やたらと昼から酒を飲むの。


 田舎からパリに出てきた若い女性たち。パリには夢と希望もあるけれど、危険もある。特に、お金がない場合は。
 朝食のテーブルでのメグレ夫人とベティのやり取りが印象的だった。メグレ夫人は、亡くした娘と重ねていたのだろう。恐らくはメグレも。


 ジェラール・ドパルデューの出演作を見るのも久しぶりだったが、パトリス・ルコント監督作を見るのも久しぶり。昔、ルコントが監督した「仕立て屋の恋」は、原作がジョルジュ・シムノンだという。歪んだ性癖の持ち主というのが共通点か。シムノンは多作だったけれど、わりとこういうキャラクターが登場する(何かコンプレックスでもあったのだろうか?)


 先日、JSHCのオークションで思わずメグレの本を落札したのも、映画を見に行く予定だったから。


 新宿武蔵野館に「エッフェル塔」(こちら)を見に来た際に写真を撮ったけど、ポスターのメグレのシルエットにジャック・タチ「ぼくの伯父さん」のムッシュ・ユロを思い出してしまった。今見ると、メグレよりスリムだし、パイプしか共通点ないけど。

 

パトリス・ルコント監督のインタビュー

www.nippon.com

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