横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ドラマ ハリー・パーマー 国際諜報局

<あらすじ>
 1960年代。英国の原子物理学者ドーソンが拉致された。ロシアに連れ去られた可能性がある。奪還を命じられたドルビー少佐は、汚れ仕事にうってつけのハリー・パーマーに目をつける。刑務所から出す代わりに、東側の人物と接触させるのだ。

 

 2022年に制作されたドラマで、元はマイケル・ケイン主演映画「国際諜報局」(The Ipcress File)のリメイク。原作はレン・デイトンの小説『イプクレス・ファイル』。マイケル・ケイン版はまったく見ていない状態で、リメイク版をAmazonPrimeで視聴した。全6話。

 舞台は東西冷戦中の1960年代。主人公の上司らは、第二次世界大戦中それぞれ英軍、米軍として長崎や東京にいたという。彼らより若いハリーは、それより後の朝鮮戦争で、ポールはキューバ侵攻で戦った世代。米国大統領はJFKことケネディ大統領。核をめぐって東西がしのぎを削り、一方で軍縮の時代が訪れようとしていた。
 
 ハリーがスカウトされたのは、MI5でもMI6でもないWOOC(P)という架空の秘密機関。予算が少ないため、何かの理由で大金が必要になると、恐喝など様々な手段で調達される。

 主人公ハリー(ジョー・コール)はあまりヒーローらしくない。西ベルリンでの軍務中に密輸品を横流しし、早々に逮捕されてしまう。黒縁メガネだと、スパイとして戦う時に困るんでは? でもその辺が狙いらしい。
 労働者階級で(アクセントまでは私の耳では聞き取れず)バツイチ、ひょうひょうとした風貌で、ことごとく「007」と対照的だ。

 女性エージェントのジーン(ルーシー・ボイントン)は上流階級の女性。「結婚後も仕事を続けたい」と婚約者に言う。もしBBC勤務の設定がバレなかったら、結婚してからどうやってスパイ業務をごまかすつもりだったのか。
 当時の最先端ファッションに身を包み、いつもエレガントだが、男性エージェントと一緒に銃を持ち、戦う。けっしてお飾りではないのだ。

 英国紳士の上司ドルビー少佐(トム・ホランダー)は郊外の屋敷に住み、妻には勤務先を偽っている。商用で出張するふりをして海外へ飛ぶ。かつて、ロシアの女性科学者とロマンスがあった模様。


 女性陣のメイクが皆まつげバサバサで1960年代ぽいなあ。ファッションやインテリア、車だけでなく、英国の田舎のパブや、アメリカン・ダイナーの様子まで。
 1960年代ぽいのはビジュアルだけではない。ハリーとジーンがいつ恋に落ちたのか、わからない(エッグベネディクトを作る時だろうか?)。まるで初期の「007」みたい。今だと、ちゃんとジェームズ・ボンドとボンドガールは恋に落ちる過程を描くけれど。

「ザ・英国」らしいのは、英国人たち、特に上流階級のジーンが感情を表に出さないところだろうか。スパイたちの化かし合いなので、皆あまり表情に出さないのだが、ジーンはにこりともしない。


 CIA捜査官のポールがカッコいい。米国側なので、当然英国陣営とは一枚岩ではないのだが、信頼できる人物なのかどうか、最後までハラハラさせられる。ジーンを夕食に誘うのが「ナンパか?」と思いきや、CIAへのスカウトだし。しかも料理が上手で素晴らしい。
 本当はハリーも料理ができるのだが、あまり腕の見せ所がなく、そのぶんポールがジーンに見事なディナーを振る舞うって感じ。あまりハリーが「きゃー、すてき」(棒読み)な感じではないので、なおさら。

 元ネタを知らないけれど、1960年らしさがあふれ、スタイリッシュだった。6話のドラマなので、惜しいところで敵に逃げられ、次回へ……という展開。


 映画「キングスマン」でコリン・ファースが演じたハリーは、このハリー・パーマーから来ているとか。確かに、黒縁メガネを踏襲している。労働者階級出身という設定は、「キングスマン」ではエグジーが引き継いでいる。

 

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