横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

クーリエ:最高機密の運び屋

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「クーリエ:最高機密の運び屋」The Courier
監督:ドミニク・クック
主演:ベネディクト・カンバーバッチ

<あらすじ>
 東西冷戦中の1960年代。英国のセールスマン、グレヴィル・ウィン(ベネディクト・カンバーバッチ)は、MI6から声をかけられる。東欧に出張することが多い彼に、ソ連へ行かせ、情報を西側に運ばせようというのだ。モスクワでは、コードネーム<アイアンバーク>こと、GRU(ソ連参謀本部情報局)幹部のオレグ・ペンコフスキー大佐が待っていた。ウィンが運び出した機密情報は、<キューバ危機>につながる重大資料だった――。

 


 この作品は、英国の情報機関MI6が一般人をスカウトして情報の運び屋をやらせたという、実話に基づいている。

 少し前に『キム・フィルビー』(こちら)を読んだところで、東西冷戦中の英国とソ連の諜報活動に興味を持った。Wikipedia辺りを見るとエピソードが出てきそうだったので、ネタバレ防止のため、あえて事前に予習せずに映画を見た。

 <キューバ危機>とは、米国に近い共産主義国キューバに同盟国ソ連が核ミサイルを配備したことで、第三次世界大戦および核戦争勃発の危機がもたらされたことである。
 1962年10月から11月にかけての出来事で、コリン・ファース主演の映画「シングルマン」はこの時期のロスアンゼルスを舞台にしている。恋人を失い厭世的な主人公に、周囲のアメリカ人もこの世の終わりを危惧して厭世的になっている、そういう背景が描かれている。

 

 ペンコフスキーが好人物で、だからこそ「あ、この人、最後に悲劇的な結末を迎えそう」という予感がした。キム・フィルビーの時も、接触してきたソ連側の担当者がやはり好人物で、それなのに最後に処刑されてしまったというのを読んだせいだと思う。

 途中、ふと、MI6にもCIAにもキム・フィルビーのようなソ連側のスパイがいたのだから、遅かれ早かれ、「運び屋ウィン」のことはバレるのではと思った。案の定、西側に持ち込まれた資料を見た若い男性職員(CIAかMI6か)が、KGBらしき人物に密告する場面が登場した。

 厳戒態勢の中、ソ連からどうやって情報を運び出したのか? モスクワ空港では、ペンコフスキーが立場を利用して、長い行列を尻目にウィンを出国させ、荷物もノーチェック。またある時は、米国大使館のトイレに空き缶を用意され、その中に情報を入れると、その後、協力者が回収する。恐らく、その人物も外交官特権で、ノーチェックで荷物を国外に運び出したと思われる。


 ウィンは1990年に死去。ベルリンの壁崩壊が1989年なので、東西冷戦の終わりを見届けた。


 ペンコフスキーのことは、日本語でもWikipediaに項目があった。

ja.wikipedia.org

 ウィンについてはこちら(英語)。

en.wikipedia.org

 英国では「Nuclear Secrets」の題でドキュメンタリーが制作され、日本ではBSで放送された。

www6.nhk.or.jp

 ペンコフスキーについては、『寝返ったソ連軍情報部大佐の遺書』という本も出ている。

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