横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

アステロイド・シティ

「アステロイド・シティ」Asteroid City
監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジェイソン・シュワルツマンスカーレット・ヨハンソンほか


<ストーリー>
 1955年、アメリカ南西部に位置する砂漠の街、アステロイド・シティ。隕石が落下してできた巨大なクレーターが最大の観光名所であるこの街に、科学賞の栄誉に輝いた5人の天才的な子供たちとその家族が招待される。
 天体観測の最中、なんと宇宙人が現れ、街は大混乱。アステロイド・シティは封鎖され、軍は宇宙人の事実を隠蔽しようとし、子供たちは外部へ情報を伝えようと企てる。

 


 砂漠の中の街を見て、なんだか「ウェス・アンダーソンすぎる風景」展(こちら)で見られるような風景だなーと思ってしまった。空の色、光の加減、建物や衣装の色彩などなど。いや、こっちが本家本元なんだけどね。

 ウェス・アンダーソンの映画は、というより今回の作品は、好き嫌いが分かれると思う。ブログを始めて以来、見たけれど感想を書かなかった映画は何本かある。今回も、備忘録とはいえ、書こうかどうしようか迷った。正直、どう解釈していいのか悩むのだ。


 ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」も外側に語り手のいる二重、三重の入れ子構造になっていたけれど、本作もそうなっている。モノクロの部分が外側で、テレビ番組が始まり、その中でエドワード・ノートン演じる脚本家が台本を書き、俳優たちを集める。さらに、その俳優たちがカラーの場面で「アステロイド・シティ」を演じる、という構成。

 カラーの部分単独でも物語として成立するのに、なぜわざわざ入れ子構造にするのだろう。
 妻を亡くしたオーギー(ジェイソン・シュワルツマン)が、白黒の「外側」の世界に出て行った先で亡き妻役の女優(マーゴット・ロビー)と再会し、カットされてしまった、本来なら「アステロイド・シティ」で使われたはずの会話を再現する。彼女は「そこであなたはこう言うのよ」と第三者的に台詞を言うのだが、これを直接オーギーと妻が(夢の中で再会したという設定だが)話したなら、感動的ではあるけれども、テンプレートのような感じになってしまっただろう。

 「フレンチ・ディスパッチ」(こちら)の時はオムニバス形式で、それぞれのエピソードを追悼記事という形でまとめられた。「アステロイド・シティ」は、オーギー一家、女優、天才の子供たち、科学者、教師とカウボーイ、宇宙人などなど、色々なエピソードが出てくるが、今一つまとまっていない。一応、オーギー一家を軸にしているようなのだが。かといって、オムニバスでもない。


 ウェス・アンダーソンは、1950年代という時代が好きなのだろう。「フレンチ・ディスパッチ」がそうだったように。

 それにしても、オーギーの妻にして子供たちの母親の遺灰だけれど、あんな縁もゆかりもないところに埋めて本当に良いのだろうか? いくら三つ子たちのお願いとはいえ。日本と違って、お墓参りの概念が薄いのかも。

 俳優陣は、いつものようにウェス・アンダーソン組の常連が揃う。スカーレット・ヨハンソントム・ハンクスビル・マーレイの代役らしい)らがゲスト参加。若手女優のマヤ・ホークは、ユマ・サーマンイーサン・ホークの娘で、どこか面影がある。