横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット

シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』
Jeremy Brett is Sherlock Holmes 
モーリーン・ウィテカー著 高尾菜つこ訳 日暮雅通監修 原書房

 

 著者は英国のシャーロキアン&ブレティアン。ジェレミー・ブレットへの愛情が行間から溢れている。今までブレットのちゃんとした評伝がなかったので「書いてしまった」という。ある意味、ファンのファンによるファンのための一冊。

 

 グラナダ版のドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」撮影にあたり、ブレットがどう役作りをしたか(もちろん、他の俳優陣も)、どう英国で評価されたか、過去の関連書籍やインタビューを引用しながらまとめられている。

 

 ブレットがコナン・ドイルの本を聖書のように持ち歩き、原作から離れないよう、脚本家に注文をつけていたというのが興味深い。そのおかげで、過去のホームズ映画・ドラマと違い、「原作に忠実な」ホームズ作品と評価されたのだから。少し前に「名探偵ポワロ」のデヴィッド・スーシェの自伝(こちら)を読んだが、やはりスーシェも原作を読み込み、ポワロという人物に肉付けをしていった。どちらも1980年代に初回が放送された作品なのに、今でも再放送され、ファンの評価が高い。主演俳優の献身的な役作りあってのことなんだなと実感。

 

 「ポワロ」を全編撮り終えたスーシェと違い、ブレットの方は病気のため、途中までとなった。妻を亡くしたのが精神的に堪えたのもあるが、完璧主義者ゆえ、役作りで自身を激しく追い込んだという。今でこそブレット=ホームズの評価も高いが、当初は「ホームズにしては二枚目すぎる」と言われたとか。

 日暮さんの解説で、ブレットはドラマから「原作を読もう」というファンを増やしたが、「シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチ以降は俳優のファンを増やしたとある。そういえば女性ファンは「カンバービッチ」と呼ばれたっけ。

 レジオンドヌール勲章を受勲できなかった話は、以前、フランス語で読んだ覚えがある。ドラマ出演者の中には100歳の女優もいて、ヴィクトリア時代をリアルに知っていたため、衣装についてあれこれ意見していたというのがすごい。