横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ポトフ 美食家と料理人

「ポトフ 美食家と料理人」La Passion de Dodin Bouffant
監督:トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュブノワ・マジメル

 

 <ストーリー>
 19世紀末のフランス。美食家のドダン(ブノワ・マジメル)と料理人のウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は、極上の料理をつくり出す黄金コンビとして知られていた。2人は長年の恋人同士だったが、何度ドダンがプロポーズしても、ウージェニーは断るばかり。

 ある時、ドダンはユーラシア皇太子から豪勢なメニューばかりの晩餐会に招待されるが、メニューには理論もテーマもなく、がっかりする。対して、ドダンはフランスの代表的な家庭料理ポトフでユーラシア皇太子をもてなす計画をウージェニーに打ち明ける。だが、ウージェニーは病に倒れてしまう……。


 Marcel Rouffの小説「La Vie et la Passion de Dodin-Bouffant gourmet」 (1924) の映画化。
 100年以上前の台所なので、とにかく今よりも料理に手数がかかる。水は外の井戸からくんでくるし、熱源はかまどだ。主演の2人は、料理の特訓を相当したのだろう。
 冒頭の料理シーンと、友人たちを招いた昼食会の様子はワクワクする。何品もフルコースで並び、ワインを合わせ、最先端のデザート「ノルウェー風オムレツ」まで登場する。

 ドダンはウージェニーに注文をつけるだけではなく、自身も料理の腕をふるう。2人とも研究熱心なところから、ただの主人と雇われ料理人ではない対等な関係になったのだろう。倒れたウージェニーに、今度はドダンが腕をふるい、料理でもてなすのがいい。
 
 女中のヴィオレットが手伝いとして姪の少女ポーリーヌを連れてくるが、ものすごい味覚の持ち主。味見しただけで、ソースの材料を当ててしまうのだ。ポーリーヌの素質に驚き、ウージェニーとドダンは「料理人として育ててみたい」と思う。映画の最後の方は、ポーリーヌをどうやって育成するかに焦点が移る。
 ふと、トラン・アン・ユン監督の「青いパパイアの香り」も、主人公が料理人の少女ムイだったなと思い出した。ウージェニーはポーリーヌの未来の姿でもあり、ムイの未来の姿でもある。「青いパパイアの香り」では、大人になったムイが主人(初恋の相手でもある)と結婚するのだ。

 あの後、ドダンは究極のポトフのレシピを考案できただろうか。そして皇太子にふるまったのだろうか。


 皇太子のお抱え料理人役兼映画での料理アドバイザーとして、本職の料理人ピエール・ガニェールが出演している。この方、もしかして昔「料理の鉄人」に出たことあるのでは?

 ジュリエット・ビノシュブノワ・マジメルは、かつてのパートナー。20年ぶりの共演だという。なぜこのキャスティングなんだろう。もしかしたら、ドダンとウージェニーが20年来の付き合いということで、「昔からよく知っている」という関係性や雰囲気を表現したかったのか。


 仕事の合間を縫って慌ただしく映画館に行ったため、鑑賞後にレストランへ……というのは叶わず。その代わり、じゃがいもが家に大量にあったので、鍋一杯にポトフを作ったよ。

 

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