横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

シムノン、ホームズとメグレを比較する

 フランスの新聞「Paris Soir」紙1934年1月28日号に、ジョルジュ・シムノンの執筆した記事が掲載されている。当時、シムノンはフランスを揺るがせた疑獄事件<スタヴィスキー事件>を調査しており、「Paris Soir」紙で連載中だった。

 

 記事の題名は「En Marge de L'Affaire Stavisky:Les Coulisses de la Police」。
 この回では、銀行強盗事件の発生から犯人逮捕までを書いているが、その中で、シムノンシャーロック・ホームズメグレ警視の捜査スタイルについて比較している。

 原文は、フランス国立図書館の「Galica」でダウンロードした。

 記事のうち、ホームズとメグレの比較部分のみ訳しておく。

<スタヴィスキー事件>の周縁:捜査の舞台裏

オルフェーブル河岸からソセー街まで*
推理小説から現実まで

 推理小説であれば、どのようなことが起きるだろうか? メグレ警視が現場に到着する。体を重たそうにして、ひっそりとパイプを何本かふかし、ビールとサンドイッチを届けさせる。手を外套のポケットに入れ、ようやく立ち去る。
 続く3日間、一週間、ビストロや容疑者の住居、路上へとメグレは赴き、次々とビールを空けながら、犯人の肩に手を置く瞬間を待ち続ける。
「お前の仕業だな、若いの」と言って。

 これがシャーロック・ホームズなら、ドクター・ワトソンを連れて、何らかの行動を起こすだろう。埃を3種類ほど集めると、ベイカー街の家にこもり、バイオリンをしばらくかき鳴らし、最後にこう明言する。
「泥棒の1人は身長1メートル73センチ、2本の金歯があり、1913年に北緯13度から22度の地域に住んでいた。もう1人は離婚している。3人目は敏感な足をしている」
(中略)
 銀行襲撃から10日後の3月4日、犯人の1人が逮捕された。残りの連中も、すぐに刑務所行きになるだろう。
 名探偵の天才的なひらめきのおかげか? シャーロック・ホームズ流の直感か?

 

*オルフェーブル河岸にはパリ警視庁が、ソセー街にはパリ科捜研がある。