横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

エッフェル塔~創造者の愛~

エッフェル塔~創造者の愛~」Eiffel
監督:マルタン・ブルブロン
主演:ロマン・デュリス

 エッフェル塔を建設した技師・建設業者ギュスターヴ・エッフェルを主人公として描いた物語。普仏戦争に敗れ、傷ついたフランスを高揚するため、パリ万博(1989年)では巨大モニュメントを建造することになった。鉄を使った斬新で近代的なデザインによりコンペを勝ち抜いたが、エッフェル塔の建設中は市民からは「醜い」と猛反対を受けた――。

 

 今では考えられないが、パリというかフランスの象徴の1つ「エッフェル塔」が反対された時代があった。19世紀末のパリでは、さすがに新しすぎたのだ。

 19世紀末のフランスが舞台、建築(そう呼んで良いかと)の話なので、いそいそと見に行ったが、映画としては正直がっかりした。

 史実に基づく部分は素晴らしかった。どうやって大臣らを説得したのか、圧縮空気を使った最新技術でセーヌ河畔に高層建築物を作った方法、犠牲者を一人も出さなかったこと、職人のストライキに対応した話などなど。トラブルの連続で、これらをどう克服して完成させたのか、エピソードは枚挙にいとまがない。建設のエピソード自体がドラマチックなのだから、エッフェル塔建設の話を主軸にして描けば、それだけで十分ドラマチックで感動的な映画になったはずだ。


 それなのに――フランス映画界には、何がなんでも恋愛要素を入れるという決まりでもあるのか? 
 寡夫だったエッフェルに人妻とのロマンスという不自然なサイドストーリーが入ったとたん、ガタガタ。エッフェルとアドリエンヌは10歳ぐらい離れている設定だが、俳優たちの歳の差が大きすぎるのだ(ロマン・デュリスは40代、エマ・マッキーは20代)。せめてヒロインは30代にしないと不自然。
 そもそもヒロインは地方都市ボルドーブルジョア出身だ。モーリアックの『テレーズ・デスケルー』のアンヌとジャン・アゼべドのように、身分違いの認められない恋愛はあったと思うが、描き方が軽すぎる。
 夫のアントワーヌも、一介の記者にそんな権力があるのか? 当時は新聞も多数あり、記者も何人もいた。かなりの有力記者であるとか、当人も名家の出身だとか、そこまでの影響力があるという説明が必要ではないか?

 「オフィサー・アンド・スパイ」(こちら)のように男性ばかりなので女性を出したということなら、エッフェルの妻を回想形式で出しても良かったと思う。幻影のように登場させ、現在の悩めるエッフェルを励ましても良い。完成の暁には幻影の妻が現れ、エッフェルと踊っても良い。不自然な「過去の恋人」より、よほど自然に夫婦愛を描けただろう。


 建造中の徐々に組み上げられ、高くなってゆくエッフェル塔や、完成当時の赤く塗られたエッフェル塔が見られたのは満足だったが。

 

ja.wikipedia.org

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 フランスでは、過去に「La Légende vraie de la tour Eiffel」という映画も作られていた。たぶん、こっちの方が見たい内容に近いのではなかろうか。

 

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