横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ジェーンとシャルロット

「ジェーンとシャルロット」Jane par Charlotte
出演:ジェーン・バーキンシャルロット・ゲンズブール
監督:シャルロット・ゲンズブール


 それぞれの世代でフランスのアイコンだったジェーン・バーキンシャルロット・ゲンズブール母娘。セルジュ・ゲンズブールとジェーンが別れた後、シャルロットは父親に育てられた。かたや、ジェーンにはセルジュ以外の伴侶との間にケイト・バリー、ルー・ドワイヨンという娘がいた。離れて育ったこと、異父姉妹たちの存在などから、なぜか母娘には遠慮が生まれていた。

 母ジェーンのドキュメンタリー映画撮影をきっかけに、シャルロットは本心を聞きたいと思っていた。

 

 映画はジェーン・バーキンの東京公演で幕を開ける。2017年に来日し、フルオーケストラをバックに歌ったコンサートだ。舞台袖には娘のシャルロット、孫のジョー(シャルロットとイヴァン・アタルの娘)もいる。
 続いて、雑誌の取材を受けた鎌倉で、母娘はお茶を飲んでいる。シャルロットは用意してきた質問を投げるが、ジェーンには思いがけぬ内容だったらしく、「先が思いやられる」と言う。この場面はまあまあの長さ、ちゃんと撮影されたように見えるが、別のインタビューを読むと、日本で映画撮影は中断してしまったとか。
 シャルロットとしては思い切って質問したのかもしれないが、母にしてみれば「娘からこんなこと聞かれるなんて」とショックだったのだろう。身内だからこそ、聞きにくいというか。

 

 フランスの別荘で、ようやく撮影が再開される。
 海辺に近いジェーンの広い家は、子供たちが遊ぶのにうってつけだ。だが、ジェーンは「物が捨てられない」「思い出がある」と言い、シャルロットに処分を委ねる。

 パリでは、亡きセルジュ・ゲンズブールの家を訪れる。父の死後シャルロットが受け継ぎ、30年間そのままにしていたという。いずれ博物館にする予定だが、この家をジェーンが訪れるのはセルジュと別れてから初めてだとか。
 「そのまま」という言葉どおり、若い頃のジェーンの写真、幼い頃のケイトとシャルロットの写真、さらには台所の缶詰までもが置きっぱなし。
 確か、セルジュはジェーンと破局後、モデルのバンブーと暮らし、映画に名前も出てきたルルという息子をもうけた。彼らとは別の家で暮らしたのだろうか。

 家の外観を見て思い出した。
 そういえば昔フランスに行った時、友人がセルジュ・ゲンズブールの大ファンで、「住んでいた家が見たい」と言うので見に行ったっけ。当時はこんなセルジュの顔のペイントなんてなかったと思うが。なんなら、お墓にも行ったわ。


 「年をとった」とぼやくジェーンだが、そこらの70代と比べたら相変わらずナチュラルで美しい。美女は年をとっても美女なのだ。かわいい孫たちもいて、舞台では昔と変わらぬ歌声で歌う。そんな恵まれた日々に影を落とすのが、長女ケイトの早すぎる死だ。
 映画ではサラッと語っているが、背後の壁に映し出されるケイトの映像を「止めてちょうだい」と頼む。また、シャルロットも詳しくは語らないが、そもそも彼女がニューヨークに移住したのは、ケイトの死がきっかけなのだ。


 日本での映画公開を目前にした7月、ジェーン・バーキンは逝去した。
 撮れるだけ撮って(au maximumとシャルロットは言っていた)最後に編集をかけたので、映画に入りきらないフィルムがたくさんあるのだろう。シャルロットは聞きたかったことをすべて聞けたのだろうか。伝えたいことはすべて伝えられたのだろうか。

 本作を鑑賞する前に村上香住子さんのインタビューを先に読んでいたが、シャルロットの愛犬が出てくる。映画の中でブリーダーに会いに行く場面があったが、その時に譲り受けた犬らしい。