横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

バルバラ セーヌの黒いバラ

バルバラ セーヌの黒いバラ」BARBARA
監督・出演:マチュー・アマルリック
主演:ジャンヌ・バリバール
2017年フランス映画

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 オープニングとエンドロールの字幕は、キャバレーの灯りをイメージしたカラフルな文字。歌姫バルバラが各地のキャバレーやコンサートホールで歌ったことをイメージさせる。

 

 シャンソンエディット・ピアフジュリエット・グレコぐらいしか分からなくて、正直に言うと、バルバラのことはよく知らない。劇中歌も、ほぼ初めて聞いた曲ばかり。それなのになぜ見に行ったのかというと、ジャンヌ・バリバールの主演作だから。そして監督が元パートナーのマチュー・アマルリックだから。どちらも前から好きな、才能ある俳優だから。

 ジャンヌは以前から歌手としても活動している。CDを出していて、コンサートも行う。ドキュメンタリー映画「何も変えてはならない」では、彼女の音楽活動が撮影されている(未見)。独特の美貌と黒髪といったバルバラに似た容姿だけでなく、女優兼歌手としての実力からキャスティングされたのだと思う。


 2000年代ぐらいから、フランスではエディット・ピアフ、ココ・シャネル、フランソワーズ・サガンといった有名人の伝記映画が続いている。他には「マイ・ウェイ」で知られるクロード・フランソワ(愛称クロクロ)やセルジュ・ゲンズブールの伝記映画も。本作が上映された文化村ルシネマに限っても、この後はアルゼンチンタンゴピアソラ、オペラ歌手のマリア・カラスの上映予定が続き、他館では現在、クイーンの「ボヘミアンラプソディ」が上映中だ。

 なんというか、伝記映画ラッシュのよう。
(へたなフィクションより実話の方が、今の観客にウケるのだろうか)

 そんな中、鬼才マチュー・アマルリックは歌姫バルバラを描くのに、よくある古典的な手法を使わない。女優ブリジット(ジャンヌ・バリバール)にバルバラを演じさせて撮影し、自身はその映画監督イブとして傍らに佇むという、入れ子構造の形をとっているのだ。

 イブは少年の頃にバルバラの歌を聴いて魅了されたという経緯を持つ。撮影現場でも、ただカメラ越しに見つめるだけでなく、バルバラと同じ空間を共有したくて、ライブの場面で観客役として入り込んでしまう(エキストラを押しのけてまで!)。

 不思議なのは、「カット!」の声がかかった後でも、ブリジットはバルバラのままだし、イブも監督ではなく、かつての少年ファンのままなのだ。

 作中、バルバラの伝記を書いた作家ジャック・トゥルニエを登場させる。現在は老人になったトゥルニエは、昔の話をイブに聞かせるだけでなく、撮影現場も見学する。そこでは、若かりしトゥルニエバルバラのやり取りを撮影しており、本人が懐かしそうにその様子を眺めている。挙句、「壁の絵の位置が違う」とまで言うのだ。


 ジャンヌ・バリバールの役作りがすごい。映画の中のブリジットも、バルバラの映像を見ながら仕草を研究しているのだが、ジャンヌも歌とピアノを相当トレーニングしたという。場面によっては「バルバラ本人か?」と観客に思わせるところがちらほら。

 実在の人物を演じるといえば、確かジャンヌは、フランソワーズ・サガンの伝記映画「サガン 悲しみよこんにちは」で編集者ペギー・ロッシュを演じていたが、名演だった。「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」でも貴族の女性をノーブルに演じていたっけ。

 

 日本でも先行上映会があり、その際に来日していたらしい。インタビューから、仕事仲間であり、元パートナーでもあったマチュー・アマルリックへの信頼が伝わってくる。

eiga.com
 好きな女優さんだけど、フランスではたくさんの作品に出演しているのに、なかなか日本には入ってこないのが残念だ。

 

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