横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

午前4時にパリの夜は明ける

「午前4時にパリの夜は明ける」Les Passagers de la nuit
出演:シャルロット・ゲンズブールエマニュエル・ベアール
監督:ミカエル・アース


 1981年から1988年まで、パリに住むある一家を描く。
 エリザベートシャルロット・ゲンズブール)は離婚し、高校生の娘ジュディットと息子マチアスと3人で暮らしている。不眠症で眠れず、深夜にラジオ番組「夜の乗客」(Les Passagers de la nuit)を聴いている。仕事を探すが、番組のDJヴァンダ(エマニュエル・ベアール)に手紙を書いたところ、ラジオ局まで会いに来るように言われ、リスナーの電話をつなぐ受付係として採用される。
 ある日、ラジオに出演した少女タルラが宿なしなことを知ると、エリザベートは「うちに泊まりなさい」と自宅に連れて行く。

 


 この映画を一言で要約するなら、1975年生まれの監督ミカエル・アースが少年時代を送った1980年代へのオマージュ、だろうか。
 ところどころ、画質が1980年代っぽく粗くなる。当時の映像を使っているのかと思えば、その粗い映像の中にマチアスが出てきて、あえて当時のように撮っているようにも思える。どっちだろう。

 進路を決めなければいけないのに、詩を書くこと以外やりたいことが見つからない無気力なマチアスが、タルラと出会い、刺激を受ける。
 専業主婦だったエリザベートはラジオ局の仕事と、更には図書館での仕事を見つけ、生き生きとし始める。最初は元夫から養育費が貰えず、心細さから泣き出し、実家の父親に援助を頼んでいたのだが。
 ラジオの仕事では、誕生日にはヴァンダたちに祝って貰うところまで信頼を得て、やがてヴァンダが病気で休んだ時には、なんと代役まで務めるのだ。大抜擢だが、元リスナーとして番組を熟知しているからか。


 途中、子供たちがエリック・ロメール監督の映画「満月の夜」を見る場面がある。お目当ての映画と間違えて入ってしまうのだが、映画を見た後で、ジュディットやタルラは映画のヒロインの台詞をそらんじるのだ。
 ミカエル・アースがエリック・ロメールにオマージュを捧げているようにも思える。黒髪のタルラは高い、幼い感じの声で話すが、「満月の夜」でヒロインを演じたパスカル・オジェの話し方を思わせる。
 そういえばパスカル・オジェって若くして亡くなったよなあ、とぼんやり思い出していたら、映画の台詞にそのことが出てきた。マチアスがタルラにパスカル・オジェの死を知らせると、彼女は激しく動揺するのだ。

 


 
 ヴァンダ役のエマニュエル・ベアール、久しぶりに見たが、何だかかっこいい役だった。1980年代のシャルロット・ゲンズブールが「なまいきシャルロット」でフレンチ・ロリータのアイコンだったが、エマニュエル・ベアールの方は「愛と宿命の泉 Part 2/泉のマノン」に出演していた。二人は「ブッシュ・ド・ノエル」(1999年)では姉妹役で、本作では24年ぶりの共演になる。


 深夜のラジオって、寄り添うような感じがいいよね。
 1980年代だと、NHK FMで洋楽をいっぱいかけていて、深夜の番組ではアーティストのアルバムをほぼフルで流していたのでエアチェック(要は、カセットテープで録音)したものだ。TOKYO FMでは、DJ城達也の「ジェットストリーム」を放送していたと思う。
 どちらも本作の「夜の乗客」とはかけ離れているけれど。日本のラジオ番組だと、どれが近いんだろうか。ハガキ職人のいる番組ばかり頭に浮かぶが。

 1980年代が舞台ということで、知ってる音楽が出てくるかもと思ったが、ほとんど知らない曲ばかりだった。音楽については、こちらの記事に詳しい。

turntokyo.com

cinemore.jp