横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

萩尾望都と竹宮惠子 大泉サロンの少女マンガ革命

萩尾望都竹宮惠子 大泉サロンの少女マンガ革命』
中川右介  幻冬舎新書 

 「24年組」と呼ばれた少女漫画界のレジェンドたちが、若かりし頃になしとげた「革命」について考察し、まとめた一冊。「大泉サロン」は、かつて萩尾望都さんと竹宮惠子さんが同居しながら漫画を描いていたアパートのこと。

 

 以前、萩尾望都さんの原画展に行ったこともあり、手に取ってみた。もちろん、萩尾さんや竹宮さんだけでなく、また少女漫画家だけでなく少年漫画家も含む、大御所の名前がずらりと並ぶ。昭和少年・少女漫画史みたい。


 世代的に、萩尾さんも竹宮さんも漫画界の<神様>手塚治虫さんの影響を受けている。かの「トキワ荘」の石ノ森章太郎さんにも。SF小説だけでなく、巨匠の作品を読んだことで「こんなSF漫画を描きたい」と思わせた。やがて萩尾さんは『ポーの一族』や『11人いる!』に、竹宮さんは『地球(テラ)へ…』に結実させる。

 男性漫画家の方が何かと有利だった時代ではあるが、かけだし時代は皆さん苦労している。描きたいけどなかなか雑誌デビューが難しい場合、当時は貸本に作品を描くことからキャリアをスタートさせていた。あるいは、男性でありながら少女漫画誌に描いていた人も少なくなかった。赤塚不二夫さんも苦労していた一人だったという。ギャグを押し殺して作風を雑誌に合わせるの、大変だっただろうなあ。

 もっとも、女性の若手漫画家がどんどんデビューすることで、描き手に困らなくなり、やがて少女誌からは男性漫画家は姿を消していく。そういえば私が子供の頃に読んでいた漫画雑誌だと、竹本泉さんが唯一、男性の漫画家だったなあ(ほんわかした絵で、男性だと気づかなかった)。

 当時は少年漫画誌に女性漫画家が作品を描くことはなかったが、「24年組」世代が突破口を開き、女性漫画家が発表するようになる。それが現在に続くのだろうが、高橋留美子さんは女性名で堂々と描いているが、もっと若い世代は男性名で描いているのはなぜだろう。ヒット作を出している人もいるのに。男性編集者の問題なのか、男性読者の問題なのか? 


 高校生でデビューする漫画家の話は、『薔薇はシュラバで生まれる』(記事はこちら)にも出てくる。里中満智子さんの場合は、高校生活とプロ漫画家の生活が両立できず(!)、3年生で中退したという逸話が本書に出てきた。その理由がすさまじく、漫画の連載を1年休んだら、その間に新しい人が出てきてポジションを奪われてしまうから。1年後にまた仕事が来るという確信がないからと、潔く高校を辞める。


 それにしても、当時の漫画家たちを横で見ていた増山法恵さんの「才能ある人たちが、編集部の壁に当たって散っていった」という話、なんだかもったいない。せっかくデビューしたのに。加えて、女性だと『薔薇はシュラバで生まれる』でも見たように、結婚・出産で引退する人もいたわけで。同時代の読者なら、運よく雑誌で読んだこともあるだろうが、彼女たちよりずっと後に生まれた世代にとっては、作品を読んだことのない、才能ある漫画家を見逃してしまったのが惜しい。

 時代もあるが、「24年組」世代はいずれも「漫画家になる」と言ったら、両親や教師に進路を反対された。そんな中、10~20代の若さで、従来の少女漫画をくつがえす、少年漫画雑誌への進出やBLの先駆け、SF作品の発表など、様々な「革命」をやってのけたのだ。

 

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