横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

薔薇はシュラバで生まれる

『薔薇はシュラバで生まれる 70年代少女漫画アシスタント奮闘記』
笹生那実  イースト・プレス 

 1970年代に、美内すずえ山岸涼子三原順など、そうそうたる漫画家のアシスタントを経験した著者による、アシスタント時代の回想。アシスタント仲間として、くらもちふさこ槇村さとるなど、今も活躍する漫画家たちが何人も出てくる。

  表紙や絵のタッチが70年代風で、漫画家の先生たちを描く時は、それぞれの画風で表現している。たとえば、美内すずえさんは代表作『ガラスの仮面』の登場人物のように描かれている(ときどきあの白目に!)。

 現在のようにデジタルで描くことはなく、当時の原稿は紙に墨汁とペンで描き、スクリーントーンを貼る。失敗したらホワイトで消すけど(上から紙を貼る方法もテレビで見たことがある)、描き直しはとにかく大変だった。

 漫画雑誌がどんどん誕生し、それに伴って新たな描き手も誕生する。当時はデビュー直後(皆、中学生や高校生という若さでデビューしてる!)の新人をアシスタントとして採用していたが、先輩の現場を経験させることで、結果的に若手を育成していたようだ。

 三日三晩のカンヅメ、不眠不休での仕事など、今なら「ブラック」と呼ばれる労働環境だが、先生もアシスタントも若かったからだろうか、不思議な熱気を感じる。「これを経験したい」とは思わないが、垣間見られたのは面白い。現在はデジタル化が進んだり、時代が変わったこともあり、こういう過酷な環境でアシスタントに作業させることはないという。

 女性漫画家の場合、結婚や出産で引退する人も少なくなかった。著者の笹生さんもその一人。タイトなスケジュールも仕事との両立が難しかった一因かと思うが、そもそも当時は女性がずっと働き続けるのは簡単じゃなかった。会社員でも、結婚や出産で離職する女性が多かったのだから。たとえ家族の理解があって続けられたとして、必要があれば時には徹夜をしたり、体力が要求される世界。現在はもっと「ホワイト」な環境だと思うが、それでも今も第一線で活躍する先生方、すごいなあ。


 以下、余談。
 1970年代というと、自分は小学生。10歳上の従姉妹が漫画を貸してくれたけど、子供だったので意味が分からない……。なんてもったいないことを……。後年、もっと大きくなってから改めて読み返して「あれ、こういう話だったっけ!」と再確認。

 本書に登場した作品だと、高校生になってから『ガラスの仮面』を読んだかな。それから幾星霜。かつての小学生は、いまや中年ですよ。美内先生、どうかお願いです、私も早く最終巻を読みたいです……!! 

 ちなみに雑誌だと、小学生の頃は「なかよし」を読み、10代だと「花とゆめ」を読んでいた。なので、本書の中に、リアルタイムで連載を読んでいた漫画家さんを見つけて感動した。


 ところで、私が通っていた高校の同じ学年からは、2人の女性漫画家がデビューしている。うち1人は高校在学中にデビューし、廊下で他クラスの女子たちがその子を囲んできゃあきゃあ騒いでいたのを覚えている。

 もう1人は偶然にも、新卒で入った会社の同期。高校では同じクラスになったことはないが、共学なのに女子が少なかったこともあり、内定式で「あ!」。お互い入社3年前後で退職し、私は留学から帰国した後に、御茶ノ水ファストフード店でばったり彼女と再会した。席に着くなり、彼女は原稿を描き始めたので驚いた。「あれ、漫画家になったんだ……!」

 その後、彼女とは再会する機会がないまま。どうしてるんだろ。