横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

探偵マーロウ

「探偵マーロウ」Marlowe
監督:ニール・ジョーダン
主演:リーアム・ニーソン


 1939年、ロサンゼルス。私立探偵フィリップ・マーロウリーアム・ニーソン)は、クレア・キャベンディッシュ(ダイアン・クルーガー)というブロンド女性から依頼を受ける。姿を消した愛人のニコ・ピーターソンを探して欲しいという。
 だが、ニコは既に亡くなっていることが調査で判明するが、クレアは「メキシコで彼を見かけた」と言う。本当は生きているなら、ニコが行方をくらました動機は何か? さらに調査を進めると、名士ばかり集まる名門クラブや映画業界の、深い闇が浮かび上がってきた――。

 

 リーアム・ニーソンの出演100本記念作品。原作は、レイモンド・チャンドラーの書いたフィリップ・マーロウ作品ではない。ジョン・バンヴィルベンジャミン・ブラックペンネームで書いた『黒い瞳のブロンド』で、いうなればパスティーシュ(贋作)。

 1930年代なので、男も女もタバコをふかし、強い酒を飲む(車で来たはずの人も!)。物語が進むにつれて、誰も彼もが嘘をつき、胡散臭く見えてくる。何かあると銃で解決。元同僚の警察官らを別にすれば、唯一、運転手のセドリックが哲学的で信頼できる。
 主人公は、英国の戯曲家クリストファー・マーロウと同姓なのをいじられる。こういうの、昔「マクベス巡査」でも見たなあ。主人公はシェイクスピアの「マクベス」と同姓だが、「よその署にハムレット巡査もいますよ」と返すのだ。

 1930年代の音楽(あるいは1930年代風)が流れ、ちょっと年はいっているが、いい男と美女が出てくる。雰囲気はばっちり。

 最後の方で、マーロウが元同僚に小道具部屋にあったものとして「マルタの鷹」を挙げていたのが面白い。ダシール・ハメット原作のハードボイルド小説で、映画化された時に、主人公のサム・スペード役はハンフリー・ボガードが演じている。また、撮影所の書斎の壁には「黒い瞳のブロンド」のポスターが貼ってあった。


 レイモンド・チャンドラーは米国生まれだが、母親はアイルランド系。両親が離婚すると、母に連れられ英国に行き、教育を受ける。原作者ジョン・バンヴィルと監督のニール・ジョーダンアイルランド人、主演のリーアム・ニーソンは英国人だが北アイルランド出身。
 アメリカが舞台なのに、主要キャストが米国人以外なのは、こちらに詳しい。
https://eiga.com/movie/98976/review/03049651/


 これまでフィリップ・マーロウ役は、ハンフリー・ボガードロバート・ミッチャムほか多くの米国人俳優が演じてきた。日本では2014年にNHKで「ロング・グッドバイ」がドラマ化され、浅野忠信が演じた。終戦後の日本が舞台だった。
 原作のフィリップ・マーロウは、身長187cmぐらいの長身、年齢は40代くらいの設定。リーアム・ニーソンはイメージに合っているが、撮影の時点で70歳近かったはず。
 主演作としてはニール・ジョーダン監督の「マイケル・コリンズ」(1996年)が記憶に残っているので、あのくらいの年齢で演じたなら、もっとアクションシーンが派手に入り、女性たちとの関係も、もっとロマンチックな方向に進んだだろう。


 ハンフリー・ボガードフィリップ・マーロウを演じた。

 こちらでは、ハンフリー・ボガードはサム・スペード役を演じた。