横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

シュヴァルの理想宮」L'Incroyable Histoire du facteur Cheval
監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブランレティシア・カスタ

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 19世紀、フランス南東部のオートリーブ。寡黙な郵便配達人フェルディナン・シュヴァル(ジャック・ガンブラン)は妻を亡くし、「仕事の傍ら男一人で子育ては大変だろう」と言われ、息子のシリルを里子に出す。未亡人のフィロメーヌ(レティシア・カスタ)と知り合い、再婚し、やがて娘のアリスが誕生する。

 パン職人として働いたことがあり、手先が器用だったシュヴァルは、石灰やセメント、拾ってきた石で<理想宮>と呼ぶ建物を作り始める――。 

 

 

 実話に基づいた作品のため、ストーリーはごくシンプル。
 毎日長い距離を歩いて配達し、合間に遠い外国の絵葉書や建物の写真を見て、想像力をふくらませた。娘の誕生を機に<理想宮>に着工するが、元々人づきあいが苦手なシュヴァルの性格もあって、地元の人からは変人呼ばわりされる。でも、記者が取材に来たり、遠方から建物を見に来る人が訪れるようになると、現金なもので、地元でも高く評価されるようになる。

 それと並行して、娘アリス、息子シリル、やがて2番目の妻フィロメーヌと、家族が彼を置いて先立っていく。アリスの死も悲しかったが、シリルの死は別な意味で悲しい。

 里子に出された時も、パリに仕立て屋修行に出るとあいさつに来た時も、故郷に戻ってきて洋裁店を始めると知らせに来た時も、口下手な父親からは愛情のこもった言葉をかけてもらえなかった。<理想宮>を通じて言葉を交わし、絵葉書を撮る写真家を呼び、また子供たち(孫のアリスとウージェニー)の存在や通訳のようなフィロメーヌ(夫の気持ちを代弁し、シリルに伝える)に助けられるが、父からは何かを言ってもらうことはなかった。シュヴァルも激しく後悔する。

 映画は、孫のアリスの結婚式で幕を閉じる。会場の<理想宮>を飾り、披露宴参列者たちが踊る中、アリスがシリルの集めた新聞の切り抜きをシュヴァルに見せる。パリにいた頃から、新聞に取材されたシュヴァルと<理想宮>の記事を集めていたのだ。


 メイクの力も大きいが、ジャック・ガンブランが実在のシュヴァルに寄せていて、「こういう無口で不器用なおじさんいるよな」と思わせる。30代から晩年の80代まで、寡黙で職人気質のシュヴァルを好演。

 フランスでこの映画が撮影されたと聞いて、ジャック・ガンブラン主演作ということもあり「日本でも上映されないかな~」と願っていたが、願いが叶って嬉しい。


 この<理想宮>は昔、見に行ったことがある。絵葉書も購入。

iledelarchitecture.hatenadiary.jp


【インタビューなど】

movie.walkerplus.comrealsound.jp

fr.wikipedia.org 


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