横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ジャック・ガンブラン特集3  「レセ・パセ」ほか

 前々回(こちら)、前回(こちら)に続き、ジャック・ガンブランの映画を紹介。

 この人は、ヒーローじゃない普通の男、普通の父親のカッコ良さ、みたいなのを演じさせるとピカイチ。今回紹介するのは、そんな作品です。

「レセ・パセ 自由への通行許可証」Laissez-passer
監督:ベルトラン・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、ドゥニ・ポダリデス
2003年 フランス映画 

 <あらすじ>
 ナチス・ドイツ占領下のフランス。プロパガンダとして存在していたドイツ資本の映画会社コンティナンタルにて、ナチスに抵抗しながらも映画を撮り続けた映画人の実話。

 レジスタンス活動家の助監督ジャン・ドヴェーヴル(ジャック・ガンブラン)は、フランス全土を検問なしで横断できる通行許可証を手にするため、映画会社コンティナンタルで働く。一方、脚本家ジャン・オーランシュ(ドゥニ・ポダリデス)も自らの信念を曲げ、コンティナンタルのために脚本を執筆することになる。


 映画は、空襲下のパリから始まる。ドヴェーヴルは妻子を田舎へ疎開させる。パリからの距離は片道385kmあるが、週末、妻子に会うため自転車で往復する(!)。列車だと途中で荷物を調べられる恐れがあり、自転車なら安全だろうという判断。映画では、手榴弾をバスケットに隠して運搬していた。

 ドヴェーヴル自身は逮捕されなかったが、彼の義弟や、オーランシュの周りの脚本家は逮捕されている。二人のジャンの行動や、釈放された脚本家の復帰の場面は、ヒーローっぽくならないように、タヴェルニエ監督は抑えた演出をしている。それがかえって、ガンブラン演じるドヴェーヴルに「父ちゃん、カッコいい!」と言いたくなる。

 第二次大戦中、フランスの映画監督でもジャン・ルノワールルネ・クレールジュリアン・デュヴィヴィエなどは、米国に逃れてハリウッドで映画を撮っていた。当たり前だが、誰もが亡命できたわけではなく、フランスに残り、彼らなりの方法でドイツと闘っていた映画人がいた。タヴェルニエは、本作で先輩たちにオマージュを捧げた。

 作中、クルーゾー監督の「密告」(1943年)製作の場面が出てくる。映画パンフレットを確認すると、コンティナンタル社の製作映画からタヴェルニエが選んだベスト5に、「密告」が入っている。これは怪文書をめぐる実話なのだが、この事件で筆跡鑑定を担当したのは、犯罪学者エドモン・ロカール(あだ名はフランスのシャーロック・ホームズ)。実は、ロカールもリヨンの地でレジスタンス活動に関与していた。

 ちなみにベスト5の残りは「犯人は21番地に住む」(アンドレ・ステーマン脚本)、「悪魔の手」、「喜びの人生」、メグレ警部ものの「セシルは死んだ」。うわあ、見たい!と思う作品ばかり。検閲が入ったり、物資(フィルム)が不足してたり、大変な時代だったのに、名作を作り上げたフランスの映画人に脱帽。


「グレート・デイズ 夢に挑んだ父と子」De toutes nos forces
監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー
2014年 フランス映画 

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 <あらすじ>
 車椅子生活を送る17歳のジュリアン(ファビアン・エロー)は、失業して久しぶりに帰ってきた父ポール(ジャック・ガンブラン)との時間を楽しみにしていたが、息子との接し方が分からないポールは口をきこうとしない。そんな父の態度に不満を募らせるジュリアンは、若き日の父がトライアスロンの選手だったことを知り、自分もトライアスロンに挑戦することを決意。トライアスロンの中でも最難関とされるアイアンマンレースに出場することを決め、反対する両親を説き伏せて父とのチームを結成する。


 米国の実話(ホイト親子)を基にした作品。偶然だが、本作の監督ニルス・タヴェルニエは、上記「レセ・パセ」のベルトラン・タヴェルニエ監督の息子。

 「レセ・パセ」では長距離を自転車で走る場面が出てきたが、もともとジャック・ガンブラン自身も自転車(本格的なやつ)に乗っていたという。本作では、自転車以外に水泳、マラソンも加わるだけでなく、車椅子の息子をサポートしなければならない。カメラに映っていない部分で、どれだけトレーニングを積んだのか……(涙)

 


 以下、余談。
 こうして見ると、最初はひょうひょうとした青年役が多かったけど、後にさまざまな役を演じている。刑事(「ブラインドマン その調律は暗殺の調べ」)、容疑者(「刑事ベラミー」)、日本非公開作品だと、医師(「ヒポクラテス」)、犯罪者(「Les Brigades du Tigre」)(こちら)など。アルベール・カミュがモデルの「最初の人間」にも主演している。

 この後も出演作が目白押し。フランスの情報で知ったのが、「Facteur Cheval(郵便配達夫シュヴァル)」の伝記映画。ええっ、あれを映画化するんだ!とビックリ。日本でも公開するだろうか。ちなみにテレ東「美の巨人」でも紹介された「シュヴァルの理想宮」の人物(美の巨人たち シュヴァルの理想宮 - 建築の島)。

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 フランス語のフィルモグラフィーを見て、「まだ見てない作品、こんなにある!」。頑張ってこれからも出演作を追いかけます。ああ、また来日してくれないかな。

 

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