横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ポール・ジャクレー展@太田記念美術館

www.ukiyoe-ota-muse.jp

 面白そうな美術展を探す時、「artscape」を見るのだけど、時々、初めて知るアーティストがいる。好きなジャンルが偏っているがゆえの不勉強なのだが、今回はポール・ジャクレー(Paul Jacoulet 1896-1960)を発見した。

 

 フランス人の版画家・浮世絵画家で、1899年(明治32年)、父親の仕事のため3歳の時に来日し、64歳で亡くなるまで日本で暮らした。昭和9年、38歳の頃から、南洋やアジアで暮らす人々を描いた木版画を続々と刊行したという。

 この経歴だけでも十分ユニークだが、ジャクレーの活動期間は、ちょうど「新版画」が出てきた時代と重なった。

 

新版画とは、大正から昭和にかけて、絵師、彫師、摺師の協同作業によって制作された木版画のことです。通常は版元が制作を主導しますが、ジャクレーは自らが彫師と摺師を指揮する私家版という珍しい手法を取ることで、独自の芸術性を追求しました。

(美術館サイトより)


 昭和初期、それも戦前ともなると、日本が少しずつ領土を広げていた時期だ。ジャクレーは朝鮮、中国、ミクロネシアの国々へと出かけ、現地の人々をモデルに絵を描く。南洋へは療養のために行ったというが、日本では見ない色彩の鮮やかな風景や民族衣装、人々の風俗に、つい絵筆をとったのかもしれない。

 

 西洋絵画のタッチで浮世絵を摺ったような、独特の画風。作品によっては100色以上摺ったという。ただ、摺師によると、色数の多さよりも、ジャクレー独特の「色を作る方が難しかった」とか。
 現代でも何かのポスターになりそうな、モダンさがある。日本人画家なら選ばないモデルや場面を選んだり、同時代の「新版画」作家と違うオリジナリティーがある。