『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』
松岡圭祐 講談社文庫
英国の名探偵シャーロック・ホームズが「最後の事件」で姿を消し、「空き家の冒険」で再登場するまでの、いわゆる大空白期間に日本を訪れていたというパスティーシュ。
ホームズが明治時代の日本に来ていたという設定なら、加納一郎『ホック氏の異郷の冒険』(こちら)、ヴァスデーヴ・ムルティ『ホームズ、ニッポンへ行く』(こちら)があるが、本作での相棒というかワトソン役は、なんと伊藤博文!(いや、ワタシが子供の頃の千円札の人だよ)
映画「長州ファイブ」で、幕末に伊藤を含む長州藩士5名が密航して英国に渡ったことは知っていたが、その時にシャーロック・ホームズ(当時10歳)と出会っていたとは。ホームズ少年の目の前で悪漢相手に日本の武術を披露し、そこからホームズが武術に興味を持つきっかけになったという仕掛け。
月日は流れ、探偵になったホームズが日本にやってくる頃には、伊藤は日本の政界の重鎮になっており(ビジュアルはどうしても、千円札の絵が思い出されてしまう)、ロシア皇太子を負傷させた「大津事件」の事後処理に追われていた。
事件の前後で、皇太子やロシア側の態度が急変しており、関係者は不審に思っていた。ホームズは日本政府に協力して、真相を解明することに。
『ホック氏の異郷の冒険』に登場した陸奥宗光が、本作でも登場するのが嬉しい。足尾銅山の名前を聞いた時は「えっ、そう来る!?」と思ってしまった。小学校の遠足で、田中正造記念館に行った覚えがあるもんで。
虚実ないまぜになったスピーディーな展開の物語で、一気に読んでしまった。
英国公使館襲撃事件は、ロバート・フォーチュンの『幕末日本探訪記』にも出ていた(記事はこちら)。
明治時代の日本とホームズを絡めた作品については、北原尚彦さんの書評に詳しい。
シャーロック・ホームズ対伊藤博文|講談社文庫
こちらの作品もおすすめ。ぜひ、読み比べていただきたい。
ホック氏の異郷の冒険―日本推理作家協会賞受賞作全集〈44〉 (双葉文庫)
- 作者: 加納一朗
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記事:ホームズ、ニッポンへ行く:ホームズ万国博覧会 インド篇 - 横文字の島