横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ホック氏の異郷の冒険

「ホック氏の異郷の冒険」
加納一 双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集〈44〉


 必要があって読み返したのだが、面白くてハマってしまった。

 大空白期間に、ホームズが明治時代の日本にやって来たという設定。ただし、サミュエル・ホック(イニシャルはSH)という偽名を用いている。

 陸奥宗光と親しくしている医師の榎元信は、英国人サミュエル・ホックを紹介される。盗まれた機密文書を、極秘に取り戻せという。ワトスン役を務めることになった榎も、本家と同じく医師である。

 江戸から明治に変わった直後の、帝都東京の描写が面白い。たとえば、警官は薩摩出身者が多かったとか、まだまだ和装姿の日本人が圧倒的に多かったとか。

 ちょうど少し前に、朝ドラ「あさがきた」で、江戸から明治に移り変わるところを見たばかりなので、ビジュアルがイメージしやすかった。確か、あさが洋装(ドレス)で歩いていたら、田舎の子供たちが目を丸くしていたっけ。

 



 極秘に捜査をするものの、西洋人が珍しかった頃で、ホームズはどこに行っても目立ってしまう(それは敵も同じ)。一度「日本人の車夫に変装した」とあるが、手ぬぐいのほっかむりで顔を隠しても、無理だよ、日本人にしては背が高すぎるよ。足が長すぎるよ。「テルマエロマエ」のルシウス状態だよ。日本を舞台にした映画「007は二度死ぬ」で、ショーン・コネリーが日本人に変装したけど、あれと同じくらい無理。

 英国人ホームズから見た当時の日本社会も、列強諸国に追いつこうと、背伸びしているように見えたのかな。「英国人に負けるもんか」と張り合っていた榎も、ホームズの推理の鋭さに感服し、最後には仲良くなる。

 捜査に加わった中条小警部が、江戸っ子のべらんめえなのが良い。普段の業務で、薩摩者への対抗意識を絶対メラメラさせていたんだろうな。

 美人と評判の、陸奥夫人が少しでも出て来ないかな~と思ったが、出て来なかった。まあ、小説だから絵や写真はついてないんだけどね。

 ホームズは聖典の中でも、捜査のために世界各地に行ったと書かれている。数か国語に堪能だったとはいえ、主にヨーロッパの言語。言葉の通じない地域ではどうやって捜査していたんだろうという、読者の問いに対する答えの一つ、それが、通訳&助手をつけることなんだな。

本当に、英訳して海外でも出版してほしいのう(翻訳が大変そうだけど)。

 

ホック氏の異郷の冒険―日本推理作家協会賞受賞作全集〈44〉 (双葉文庫)
 

 

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