横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

19世紀パリ時間旅行展

「19世紀パリ時間旅行  失われた街を求めて」
練馬区立美術館

www.neribun.or.jp

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 フランスの首都パリは、最初から現在のような形ではなかった。多くの日本人旅行者が目にしてきたのは、昔ながらのパリではない。ナポレオン三世統治下だった19世紀に、知事・オスマン男爵の決行した「パリ大改造」後の姿なのだ。

 



 ナポレオン三世が、パリを近代的な都市に変えようとしたきっかけは、ロンドンでの亡命生活だった。ロンドンの街を見て、「パリもこんな機能的な都市にしなくては」と思ったとか。ロンドンもまた、最初からあの姿だったわけでなく、1666年の、かの「ロンドン大火」をきっかけに、新しく都市として造られた。

 パリがどれだけ災害に弱かったのかという話は、『パリが沈んだ日 セーヌ川の洪水史』(佐川美加著、白水社)で読んだことがある。セーヌ川にかかる橋の上に住居が建てられ、ひとたび洪水が起こると、大きな被害や犠牲者が出たという。「パリ大改造」の後でも、パリは1910年に大洪水に見舞われたし、昨年も洪水のためにルーヴル美術館が休業したというニュースを見た。まだ完全には克服されていないが、それでも、昔よりは安全になったのだろう。

 今回の展示では、「パリ大改造」のビフォー・アフターというか、その途中を描いたリトグラフや、写真が見られた。つまり、19世紀のパリを描いた文学作品を読む時は、年表を傍らに置いて、物語の舞台はパリ変貌のいつ頃なのか、確かめないと話が合わなくなるかもしれない。そのくらい、地域によっては景色が変わった。

 当たり前だけれど、19世紀前半には、まだエッフェル塔サクレクール寺院もなく、つまり、20世紀以降おなじみのランドマークがなく、不思議な感じがする。アンリ・ルソーの「エッフェル塔とトロカデロ宮殿の眺望」という絵では、建設途中のエッフェル塔が描かれている。この作品は、年配の東京都民なら、「東京タワーの建設風景みたい」と思うのかな。

 展示の絵画やリトグラフは、各地の美術館から集めたものが多いけど、古書などは、鹿島茂さんのコレクションらしい。他のページも拝見したいな~。会場には19世紀のドレス(本物? 再現したもの?)も展示されていて、初期のものは「ジェーン・オースティンの小説の世界みたい」、後期のものは「なんだか映画で見覚えがあるな」。数十年あれば、ドレスもデザインが変わるよな。

 19世紀を通して、パリというかフランスが大英帝国の後塵を拝したのは、やはりフランス革命から普仏戦争までの一連の出来事が大きかったんだなと、改めて思った。フランス革命は18世紀だけれど、国政が不安定になり、ナポレオンの遠征で多くの戦死者が出て、多くの労働人口を失い、普仏戦争ではパリ市内も戦場になるし、プロイセンへ多額の賠償金を払って……。その間、英国は政変もなく、19世紀にはヴィクトリア女王の統治下、「太陽の沈まない国」と呼ばれ……。

 なかなか愉快な「時間旅行」だった。鹿島茂さんのコレクション、いつかどこかで、まとまったボリュームで見学できるようにして頂きたい。

 雑誌「PEN」で紹介された記事

画で観るパリ大改造のビフォア・アフター。『19世紀パリ時間旅行』でのタイム・トラベルはいかが? | News&Topics | Pen Online

 

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