横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

「トットひとり」と「トットてれび」と向田邦子

トットひとり」黒柳徹子 新潮社

 現在、NHKで放送中のドラマ「トットてれび」は、黒柳徹子さんのエッセイ「トットひとり」を映像化したもの。テレビ放送が開始された頃からの裏話や、俳優や脚本家、ディレクターといった作り手の姿を描いている。

 あまりリアルタイムでドラマを見ない私が、「トットてれび」を見ているのは、実は向田邦子さんが出てくるから。こういう伝記ものって、別にそっくりさんコンテストである必要はないと思っているが、向田さん役のミムラさんがとてもいい感じ。たたずまいが、写真で見た生前の向田さんを思わせる(あ、黒柳さん役の満島ひかりさんも似合っている)。

 2004年に放送された、ドラマ「向田邦子の恋文」では山口智子さんが若い頃の向田さんを演じていて、キャスティングした演出家の久世光彦さんが「若い頃の向田さんに似ている」と言っていた。「トットてれび」の制作があと何年か早ければ、山口智子さんが演じたのかな?

 



 向田邦子さんが亡くなった時、私はまだ小学生。たぶん、ドラマは見ていなかった(見ても理解できなかっただろう)。それでも、飛行機事故のニュースはよく覚えている。その後TBSで毎年、向田さんが脚本を書いたドラマが放送されたので、それを見て向田邦子の世界を知っていった。

 大人になると、今度はエッセイを発見し、文庫本でせっせと読んだ。エッセイを読み終えると、ご家族や久世さんなど、周囲の人の書いた回想録、さらにはライフスタイル本を読んだ。なんてカッコいい、美しい人なんだろうと、ほれぼれした。

 先日放送された回では、黒柳さんと向田さんの友情にスポットを当てていた。一人暮らしをしていた向田さんのマンションに、黒柳さんがちょくちょく遊びに行って、たわいのないお喋りをしていた日々。そして、運命の1981年8月の事故の日を迎える。丁度ニューヨークへ出発しようとしていた黒柳さんは、何も知らず、向田さんの留守番電話にメッセージを吹き込む。

 このくだりは、向田さんの回想録で読んだ記憶がなくて、初めて知ったエピソード。そこで、ドラマの原作である「トットひとり」を読み始めたという次第。向田邦子さんの妹である和子さんとの対談も載っていて、向田ファンにとっては資料としても貴重な本である。

 「トットひとり」には、寅さんで有名な渥美清さん、森繁久彌さん、沢村貞子さんらとの交友録も描かれているが、皆、鬼籍に入った人ばかりだ。前半は、ドラマにも描かれたような初期のテレビ業界のドタバタぶりが軽妙だが、後半は読むうちに寂しくなってくる。長生きすると、知っている人(特に年上の友人知人)がいなくなってしまうという事実を突き付けられる。

 本当は、向田邦子さんについては、誕生日の11月28日か命日の8月22日に記事を書こうと思っていたが、ドラマを見ているうちに、いてもたってもいられなくなった。

 

 ところで、一回目を見逃してしまったのだが、ブギの女王こと笠置シヅ子役を演じていたのは、なんと、EGO-WRAPPINの中納良恵さん! 再放送、プリーズ……。

 

【追記】

 再放送でようやく見られた。ドラマでは一部だけだったので、中納良恵さんバージョンの「買物ブギ」フルコーラスを貼っておく。関西弁の歌詞が効いてる。

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トットひとり

トットひとり

 

 

トットひとり

トットひとり