横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

トーベ・ヤンソンの伝記

ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン」トゥーラ・カルヤライネン著
河出書房新社(翻訳:セルボ貴子、五十嵐淳

トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン」ボエル・ウェスティン
講談社(翻訳:畑中麻紀、森下圭子)

 

ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン

ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン

 

 

トーベ・ヤンソン  仕事、愛、ムーミン

トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン

 

 

 2冊まとめて紹介。読んだのはだいぶ前で、しかも連続して読んだので、簡単な感想のみ書いておく。たぶん、2冊を詳しく比較した書評は、もう誰かが書いていると思うので。

 日本では「ムーミンの作者」という印象が強いアーティストだが、長いキャリアの間に、実に多彩な仕事をしていたことがわかった。特に、本当は画家としての成功を願っていたということは、初めて知った。また、ひとたび「ムーミン」で成功した後は、色眼鏡で見られてしまい、なかなかその夢が実現できなかったことも。

 


 若い頃は男性の恋人がいたのに、結婚・出産の道を選ばず、生涯を共にしたパートナーが女性だったというのも、伝記で初めて知った。戦争を経験したことで、戦争を引き起こした男性という生き物への強い失望感を抱いたり(当時の政治家は男性ばかり)。また、芸術の世界でも、女性の地位が非常に低かったので、「誰かの妻」や「誰かの母」になってしまうと、第一線では活躍できなくなってしまう危機感もあっただろう。セクシャリティの問題だけでなく、男性と共に生きることの嫌な部分を見てしまったのかもしれない。

 トーベ・ヤンソンの両親は芸術家で、父親は彫刻家、母親は挿絵画家だった。活躍のジャンルが違うけれども、彼女もまた「父の娘」で、若き芸術家としては、父のことをとても意識していたふしがある。トーベが芸術家としての成功を手にしたとき、母親や弟だけでなく、父親に喜んでもらいたい、認めてもらいたいという気持ちがあったのではなかろうか。

 親子で同じ職業についてしまった「父の娘」ゆえの葛藤は、スウェーデンの歌手モニカ・ゼタールンドにも共通する(記事はこちら)。

 いずれも分厚い本で、翻訳者も2人ずつ。これだけボリュームが多いと、なかなか翻訳作業の終わりが見えず、とても大変だっただろうなあと思う。

「ほぼ日」に「トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン」翻訳者の一人、森下圭子さんと重松清さんの対談があり、こちらもお勧め。

  伝記を読んで驚いたのは、アーティストであるトーベ・ヤンソンが実務面でも有能で、本来なら代理人や弁護士や秘書を雇って対処するであろう事務処理、契約などを自分でやっていること。ただでさえハードワーカーなのに、一体いつそんな仕事までやるの? フィンランド人ってそんなに他人を信頼しないの? と思っていたが、上記の対談を読んでちょっと納得がいった。

 

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