横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ストックホルムでワルツを

ストックホルムでワルツを」Monica Z

監督:ペール・フライ

主演:エッダ・マグナソン

2013年 スウェーデン映画 

 

 スウェーデンジャズ歌手モニカ・ゼタールンドの伝記映画。

9月20日が誕生日なので、今日はこの映画の感想を。

 

 シングルマザーのモニカは、電話交換手の仕事の傍ら、ステージで歌っていた。米国でライブに出演するチャンスに恵まれ、挑戦するも、失望を抱えて帰国する。ある時、スウェーデン語の詩に出会い、「テイク・ファイブ」のメロディーに乗せて歌ってみると、好評を博す。そこからスター歌手への道が開ける。

 

 スウェーデン語のジャズというものを、遅まきながら、私はこの映画で知った。「テイク・ファイブ」に歌詞をつけて歌ったものも、初めて聴いた。外国語である英語でなく、スウェーデン語で、言葉の細かいニュアンスまでつかめる母国語を使って、モニカがのびやかに歌う。

  

 現在では、スウェーデン人といえば皆英語がペラペラだけれど、1950年代には米国は遠い国で、なかなかジャズの本場へ行くことも叶わなかった。また、白人であることで、黒人の女性歌手エラ・フィッツジェラルドに「ニューオーリンズの何がわかる?」と言われたり。発音や歌い方をうまくコピーできても、ソウルまではコピーできない。黒人の音楽を、白人に理解できるのか?と問われているよう。時代は違うけど、エミネムが「白人にラップが歌えるのか?」と言われたのを彷彿とさせる。

 

 モニカは、自身の野心はともかくとして、音楽家だった父親に認められるのを目指していたんだというのが伝わってくる。ストックホルムでの公演の初日、父親が来ていないことに落胆したり。ある挑戦について「パパはどう思う?」と尋ねたり。最後にはNYでビル・エヴァンスの伴奏で「ワルツ・フォー・デビー」を歌うという夢を叶えるのだけど、ようやく父親に認められて喜ぶ。

 

 歌手エッダ・マグナソンがモニカ役を好演。映画を見たあとで画像検索したら、モニカとそっくりの風貌だったので驚いた。

 

 恋多き女性だった彼女は、娘のために「家庭を持ちたい」と願いながらもなかなか実現せず。映画では、旧知のベーシストで彼女のことを見守ってきたストゥーレと再婚する場面で終わる。めでたしめでたしと思いきや。Wikipediaを見たら、パートナーが何度も入れ替わり、映画には登場しなかったけれど当時は他の恋人がいたり、また、ストゥーレのあとにも違う男性と結婚していたことが判明。パパが何度も入れ替わる生活で、モニカの娘はどんな恋愛観を持つ大人に育ったのだろう。

 

 タイトルの「ワルツ」とは、名曲「ワルツ・フォー・デビー」からとったもの。モニカがビル・エヴァンスと共演した際の動画はこちら。

 

www.youtube.com

 エッダ・マグナソンによる劇中歌。

https://www.youtube.com/watch?v=Ni5a6Q8D16I

  以下、余談。

 自分はスウェーデン語にはまったくなじみがないはずなのに、映画を見ていたら、ちょっとした挨拶の言葉とか、やけに聞き覚えがある。今まで、スウェーデン語なんてどこで聞いたっけ? 記憶を探ると、フランスに留学中、周囲にとてもスウェーデン人学生が多かったのを思い出した。彼らが「タック」(ありがとう)とか「ヘイドゥ」(じゃあまた)とか言っていたのだ。すっかり忘れていたのに、映画を見て思い出した。