横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

刑事フォイル 続き

「刑事フォイル」Foyle's War
主演:マイケル・キッチン

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 「Gyao!」で公開のシリーズ4まで視聴。
 色々書きたいことが出てきたので、「追記」とせずに記事を分けて書く。

 

 脚本のアンソニーホロヴィッツは小説家としてホームズ・パスティーシュ『絹の家』や『モリアーティ』を発表しているが、”らしい”場面があった。

 シリーズ3第2話「癒えない傷」の、病院での演し物の場面で、ホームズっぽい扮装をしていた。刑事フォイルが病院の事件を調べているのにひっかけて、1人がディアストーカーにパイプという”ホームズ・ルック”で登場。

 次の演し物では入院中の患者(療養中の兵士)と婦長の男女コンビでジンジャー・ロジャースフレッド・アステアよろしく歌うのだが、その中で「手がかりなしのシャーロック・ホームズ」と歌うのだ。しかも男性患者のガウンが、どことなくウィリアム・ジレットの演じたホームズっぽいのだ。実在する当時の歌だろうか、それともオリジナルだろうか?

Paris without the Eiffel Tower
Spring without an April shower
Sherlock Holmes without a single clue
I just can’t imagine
what the world would be like without you

London, without Trafalgar Square
Ginger, without Fred Astaire
A rainbow that's insane for it has no blue
Imagine it, I'd try if I could
I could see the trees but without the wood
I simply can't imagine

https://transcripts.foreverdreaming.org/viewtopic.php?f=124&t=15915


 このドラマでは、英国市民から見た戦争が描かれる。チャーチルのような政治家でもなく、上流階級の人間でもなく、庶民の目線で見たものが。なので、英国史についてこれまで読んだ本や見た映画にはなかった視点や描写が新しい。

 結果を見れば英国は第二次世界大戦の「戦勝国」なのだが、開戦当時はこんなにも敗色濃厚だったとは。ソ連や米国が参戦する前は、戦後を見据えてか、英国内にもこれほど親独派がいたとは。カズオ・イシグロの『日の名残り』で薄々知ってはいたけど、ここまで多いとは思わなかった。

 戦時中は日本も物資不足、食料不足に悩まされたけど、英国もかなりひどかった。空襲に伴い、住宅不足も。アガサ・クリスティの自伝で、ロンドンで空襲に遭った話が出てきたけれど、彼女は家をいくつも持っていたので田舎に疎開できたし、あれはかなり恵まれていた方だったのだ。回想だからかもしれないけど、自伝には、悲壮感はあまりなかった。

 公安が暗躍し、人々のちょっとした言動に目を光らせていたり、「当時の日本と同じだったのか!」。ドイツに占領されたフランスは分かるけど、英国もそんな感じだったとは。敵国が近いので、スパイ探しの目的もあったとは思うが、戦意喪失のような発言や、非協力的な態度に「非国民」呼ばわりするとか、どこの島国の話だろうと思ってしまった。


 若者の間で、陸軍・海軍よりも空軍が人気というのが既視感が。ドラマの中ではアンドリューが特にそうだけど、イケメンで、エースパイロットで、女の子にモテてと、完璧やがな! 現代でも普通にモテそう。フランスも、ロマン・ガリの『夜明けの約束』のように、元々イケメンで女の子にモテていたロマンが、さらにパイロットとして飛行機に乗り……。まるでイケメンにモテ要素を追加という感じ。他の欧米諸国でもそんな感じだったのかなあ。


 また、空襲が激しくなる中で、富裕層が田舎のマナーハウスホテルに滞在して、田舎の食料を入手したり(当然、地元住民からは反発をくらう)、のんびりスポーツや犬の散歩をしたり、戦時中とは思えない暮らしをする。

 この「隠れ家」の回を見たのは、首都圏で緊急事態宣言が出ていた最中。その少し前には東京都知事が首都封鎖の可能性を示唆し、途端に東京からは富裕層が軽井沢や葉山の別荘に「コロナ疎開」した。ネットでは批判の声も聞いた。批判の理由はドラマとは違うが、「なんてタイムリーなんだろう」と思った。

 月並みだけど、時代や国が違っても、一般市民の暮らしってあまり違わないんだなあと実感。


 ドラマでは、複数の事件が起きたり、あるいは事件とまではいかないサブエピソードが発生し、一見無関係なそれらが絡み合っている。1つの殺人事件を解決すると、もう1つの殺人事件も解決されたり。あるいは、過去のエピソード(第一次世界大戦での出来事)が現代のエピソードとオーバーラップしたり。とにかく脚本が巧み。日本でもこういうミステリドラマ、ないのかね。


 「刑事フォイル」はまだまだ続きがあり、ドラマの中では終戦を迎え、やがて東西冷戦が始まる。フォイルは保安部に移るらしい。

 今、「刑事フォイル」ロスに陥っている。どこで続きが見られるかのう。どうせなら「Gyao!」で「続きはこちら」と、有料配信を始めたらいいのに。喜んで申し込むのに。