横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

翻訳というおしごと 翻訳者に「未来」はあるか?

「翻訳というおしごと 翻訳者に「未来」はあるか?」実川元子著 アルク

 

 
 翻訳者/ライターの実川元子さんが、実務・出版・映像と分野を超えて、活躍中の翻訳者にインタビューしたもの。これから翻訳者を目指す人には、ぜひ参考にしてほしい一冊。翻訳のスキルアップの部分はもちろん、報酬のところも。

 私自身、翻訳会社勤務を経てフリーランスで実務(産業)翻訳を始め、出版翻訳も少しばかりかじっているけれど、医薬など他分野は未知の世界だし、映像翻訳もまた然り。第一線で活躍する先輩翻訳者の貴重な経験談がありがたい。

 



 実務翻訳と映像翻訳の壁が崩れかけているというのは、大いに納得。少し前、マーケティング文書の翻訳で、CEOのスピーチだとかセールス部門のメッセージなんかはパワーポイントだったけど、最近は動画になっているからね。

 私ももう少し若かったら、一から映像翻訳の勉強を始めて、この分野に参入するんだけど。今からだと、学費の元が取れるのか分からないのでねぇ……。

 英語力をはかる指標として、サラッと「TOEICが~」と書かれていて、英検なんて出てこない。そりゃそうだよね。英検は日本国内でしか通用しないからね。応募書類に書くなら、TOEICのような世界的に通用する語学資格の方が良い。応募先は日本の翻訳会社であっても社内スタッフは外国人かもしれないし、外資系企業だって日本で翻訳者を探すんだから。

 英語に限らず他言語でも、どうせなら世界的に通用する語学資格を目指しましょう。本書に付け加えて、私が若い人にアドバイスするとしたら、この点かな。

 ゾッとしたのは、どの分野でも一様に報酬が下がっているということ。出版翻訳は昔から「その仕事だけでは食えない」と言われているし、実務翻訳も年々安くなっているのを実感している。それなのに、前途有望そうな(実務系の動画や、ゲーム翻訳にも参入できる)映像翻訳でも下がっているとは!

 実務翻訳の中でも、IT系ローカライズを例に挙げてみる。今から四半世紀昔のバブル末期、大学生の頃にコンピューターマニュアル制作会社でバイトしていたのだが、当時、英日で1ワード30円だった記憶がある。

 その後、翻訳会社に入社して、2000年頃、ローカライズ部門にヘルプに行った時が1ワード15円~10円。ちょうどTradosが登場し始めた辺り。

 最近だと、10円~10円を切るのが当たり前に。

 特許とか医薬とか専門性の高い分野は、IT系より単価が高いと思う。それでも、Tradosを導入しているなら、やはり昔より安くなっているだろう。

 それだけに、本書第3章の「撤退も視野に入れる」はグサッと刺さる。たとえ家族を養っていなくても、あまりに儲からないビジネスからは手を引くのも手だと。肝に銘じておきます。


 本書で紹介されているアドバイスはいくつかあるが、「これ真似したい」と思ったのは立ったまま仕事のできる机。登場した翻訳者の方も、腰痛対策で始めたのかな。

 私事だが、先月から腰痛に悩まされている。立つのも座るのも問題ないけど、長時間椅子に座るとなると心配。海外のオフィスで導入されているような、高さの変えられる幅広机(PCだけでなく資料も置ける)も販売されているんだけど、これがまた結構なお値段で……。可動式の机でなくとも、高さのある台を使うならば、手の届く価格で買えるかも。場所の問題さえ解決すれば、真似できそう。


 現在の、翻訳という仕事の良い部分も悪い部分も知ることができる。翻訳者志望でなくとも、語学を学んでいて、語学で何ができるか模索している最中の人にも読んで欲しい。


 本書と前後して読んだ「翻訳事典2018年度版」(アルク)も紹介しておく。こちらもプロ翻訳者のインタビューが満載で、貴重なアドバイスが読める。

翻訳事典2018年度版 (アルク地球人ムック)

翻訳事典2018年度版 (アルク地球人ムック)

 

  翻訳講座の先輩が取材を受けているというので、手に取った。私がその講座に通ったのは、合計すると3年半ぐらいかな。授業の様子は、読んでいて「そうそう、そんな感じだった」と懐かしくなった。

 先輩は初期から参加していた方で、当時の先生の言葉の再現を読む限り、初期はかなりスパルタな印象。確かに、初期の生徒からはプロデビュー者が続々出ていた。新聞の書評欄で名前を見かける、そうそうたるメンバー。厳しかったと思うけど、当時の授業を受けてみたかったな。

 私の受けた授業は楽しくて、お金と時間が許すなら、この講座はずっと参加したかった。翻訳は一生勉強だけど、楽しく学んでも良いではないか。

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