横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

東京田園モダン

「東京田園モダン」三浦展著 洋泉社

東京田園モダン

東京田園モダン

 

 
 本書は雑誌「東京人」の連載で、東京23区の郷土博物館の資料をもとに大正・昭和の東京郊外の変遷をまとめたもの。工場が集まる下町エリアや、西部の高級住宅街が、いかにして現在のような形になったのかが分かる。

 北区・王子の飛鳥山公園は花見で行ったことがあり、興味深く読んだ。現在の滝野川からは想像がつかないが、かつて江戸の一大リゾート地だったとは! 江戸時代に考古学者シュリーマンや、プラントハンターのロバート・フォーチュンといった外国人客が王子界隈を訪れていたのはびっくり。料亭「扇屋」は、玉子焼きの専門店として現在も続いていて、何度かテレビで紹介されたことがある。

 



 ロバート・フォーチュンについては、以前、「紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく」を読んで、興味を持っていた。ロバート・フォーチュンは、19世紀に中国からインドにチャノキを持ち出すのに成功し、英国領だったインドで紅茶栽培が始まった。英国の紅茶文化の発展と関わりのある人物。彼は中国のみならず、日本でも植物の取集を行っていたのだ。参考文献にあった、フォーチュンの著書「幕末日本探訪記」も読んでみようかな。

 また、東京のお隣埼玉県にもふれている。かつて「鎌倉文士に浦和画家」(文学者、作家の多かった鎌倉と対比して、浦和には画家が多く住んでいた)と言われた、浦和のアトリエ村の話は面白かった。関東大震災を機に、東京から浦和に移り住んだ画家も少なくなかったとか。

 少し前に、浦和の鳳翔閣を訪れた際(こちら)、地元の画家に関する展示があったっけ。本書を読んで、文教都市・浦和の成り立ちについて「そういう経緯があったのか」と納得。

 浦和に近い大宮にはかつて「盆栽村」があり、やはり関東大震災で被災した盆栽業者が東京から移住したことと関わりがある。今も盆栽園が数軒あるし、盆栽美術館も出来て、海外から観光客が訪れるまでになった。

 合間に出てくるいわゆる「せんべろ」の飲み屋がいい。昔からの狭い通りなんかにあるんだよね。東京オリンピックを控えて、東京は今あちこちで再開発が進んでいるけど、新しくてきれいだけど個性のない街になる前に、急いで飲みに行かなきゃ。

 

英国の紅茶文化に興味のある方にお勧め

紅茶スパイ―英国人プラントハンター中国をゆく

紅茶スパイ―英国人プラントハンター中国をゆく

 

 

幕末日本探訪記 (講談社学術文庫)

幕末日本探訪記 (講談社学術文庫)