横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ブルゴーニュで会いましょう

ブルゴーニュで会いましょう」Premiers Crus
監督:ジェローム・ル・メール
出演:ジェラール・ランヴァン、ジャリル・レスペール
2015年 フランス映画 

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 フランスのブルゴーニュ地方にある老舗ワイナリー、そしてバラバラになった家族の再生の物語。たぶん、この映画を楽しめるかどうかは、見る人がワイン好きかどうか、生産地やワイナリーを訪れたことがある(欲を言えばフランスで)かどうか次第かもしれない。以下の感想は、その辺を割り引いて頂きたい。

 渋谷文化村での公開は11月19日からだけど、ちょうど17日はボジョレー・ヌーボー解禁日なので、それに合わせたのかな。

 父親役のジェラール・ランヴァンは、アニエス・ジャウィの「ムッシュ・カステラの恋」でいい味出していた俳優。息子役のジャリル・レスペールは「イ・サンローラン」で監督を務めた。

 父に反発してパリへ出て行ったシャルリは、ワイン評論家として成功していた。一方、実家のワイナリーは多額の負債を抱えており、大事な畑を売却する瀬戸際にあった。妹マリーの言葉に、家業を立て直そうと、シャルリはブルゴーニュに戻ってくるが、ブドウ畑や現場で働いた経験はなく……。

 



 偶然だけど、国は違えど、前の記事に書いた「口先だけでなく、汗水たらしてみい!」が当てはまる状況。とはいえ、この主人公はプロのワイン評論家なのだが。

 ワイン醸造家は繊細な芸術家であると同時に、ブドウを育てる農家でもあるんだなと痛感。ブルゴーニュのどの辺が舞台かしらと思っていたら、なんと、あの「コルトン」! そりゃ、父も畑を手離すまいと思うわけだ。

 買い手候補に、日本の銀行と、ライバルでもある隣のワイナリーが名乗りを上げるのだが、父親の反発感がすごい。数年前に、確かサントリーだったかな、日本企業がフランスでワイン造りに乗り出したと思うんだけど。最近も、経営難に陥った仏ワイナリーを中国人に売却したとかで、騒ぎになった。ああ、これが東洋人に対する本音なのね……。

 一方、隣のモービュイソン家では、当主エディットは米国人の娘婿に不満があり、娘に「このままじゃ継がせない」と言い放つ。婿は米国でワイン造りの経験があるはずだが、彼のセンスを信用できないのか、それとも、ブルゴーニュの人間じゃないから我慢ならないのか? そんなこと言ったら、わざわざ婿がフランスに来てくれたのに、娘は困るじゃん。老舗って大変……。

 映画の中のワイン造りに関しては、醸造家の意見を聞きたいところ。偶然に見えるけど、あれって合っているんですか? お隣がトラクターを使う場面でシャルリは馬を使い、父親が使っていた温度管理の簡単なステンレスタンクの代わりに昔ながらの”壺”を使う。手法自体は機械からアナログに戻ったわけだけど、現代のワイン造りにおいて、あの方法はアリなのか? 今度、どこかのワイナリーに行ったら、聞いてみようかな。

 以下、余談。
 フランスに住む人がよく聞かれるのが、ワインはボルドー派か、ブルゴーニュ派かという質問。ワタシの場合は、ボーヌに2回行って、試飲をしまくったので、おのずとブルゴーニュ派になった。留学していた街に割と近かったので、リヨンやディジョンでレストランに行ったり。まだボルドーには行っていないのだ。でも、もしボルドーに行って、地元の料理を頂きながらぴったりのワインを飲んだら「ボルドーもいいね!」と言うだろう。フランス・ワインの中でいちばん好みなのは、エリック・ロメールの映画の舞台にもなったコート・デュ・ローヌなんだけどね。

 初めてボーヌに行ったのは、語学学校の遠足。ワイン祭りで屋台がいくつも出ていて、とても賑やかだった。ボジョレーに限らず、ワイン生産地では、11月になるとワイン祭りを開催する。この映画で、秋のコート・ドールが、ブドウ畑が見られただけで、ワタシはもう満足なのだ。

 ボジョレー・ヌーボー解禁日になると、ワイン生産地に限らず、あちこちの街でカフェの前にテーブルが並び、グラス売りをする。フランス人にとって、これは秋の収穫祭なのだ。今年はまだボジョレー・ヌーボーを飲んでいない。今なら、甲州ヌーボーを飲んでみるのもいいかもしれない。

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