横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

おかえり、ブルゴーニュへ

「おかえり、ブルゴーニュへ」Ce qui nous lie
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シビル

2017年 フランス映画

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 セドリック・クラピッシュの最新作は、フランス・ブルゴーニュを舞台にした、あるドメーヌの物語。

 

 原題は「Retour en Bourgogne」「Le Vin et le Vent」などいくつかあるらしいが、私が見た版は「Ce qui nous lie」だった。直訳は「我々を結びつけるもの」で三人きょうだい目線。「Retour~」を直訳すると「ブルゴーニュへの帰還」になり、これは長男ジャンの目線。

 ブルゴーニュを舞台にしたワイナリーの物語というと、「ブルゴーニュで会いましょう」(2015年の映画。記事はこちら)を思い出すが、あれがおとぎ話だとすると、こちらは超リアルな話。なにしろ前者は、ワイン作りは未経験の評論家が、ビオ・ワインに挑戦して成功してしまう。先代である父は、離婚を機に無気力に陥ってしまったが、病気じゃないし、しようと思えば息子にアドバイスぐらいできたはずじゃ……? かたや、本作は3人きょうだい全員がワイン作りにそれぞれ(実家、海外や婿入り先などで)従事しており、アドバイスを仰ごうにも父は死去した後。さらに、相続税が重くのしかかる。

 それにしても、2年違いでブルゴーニュワインの映画が封切られるとは。ボルドーのシャトーと違い、ブルゴーニュの方は家族で少量生産で作るものだから、家族ドラマとして撮りやすいのか。


 先に「ブルゴーニュで会いましょう」を見たせいか、ドメーヌの売却先候補として、隣人だったりジェレミーの義父だったり、テロワールを理解しているブルゴーニュの同業者というのは、私には悪くない選択肢に思えた。結局は、隣人や義父がいけすかないという理由で断るのだが……。かといって、米国人だの日本人だのじゃ、もっと嫌なんでしょ? 

 ややこしいのは、父に反発して実家を飛び出した長男ジャンがオーストラリアでワインを作っていること。向こうに妻子もいる。国際離婚の瀬戸際にあり、まるでクラピッシュの前作「ニューヨークの巴里夫(パリジャン)」さながら。実家のドメーヌをどうするのかと同時にオーストラリアのワイナリーもどうするのか、ジャンにとって悩ましい。

 次男ジェレミーも、敷地内同居の婿殿なので立場が辛い(日本の農村に嫁いだ女性みたい)。肝心のワインも、姉のジュリエットと比べると「(醸造家として)才能がない」と言われてしまい。敷地内同居は引越で解消したけど、義実家のワイン作りの方はどうするんだろう。

 

 エンディングクレジットを見たら、ロケ地がこれまたブルゴーニュのコートドールで、たくさんのドメーヌが撮影に協力しているのが分かる。収穫の場面もそうだし、あちこちの畑や作業場を借りたんだろうな。

 改めて映画のWikipedia(仏語)を確認したら、ムルソー、シャサーニュ・モンラシェ、ピュリニー・モンラシェ、ボーヌで撮影を行ったと書いてある。ブルゴーニュワインの中でも一流どころばかり!


 フランスを舞台にしたワインの映画は、他にエリック・ロメール監督の「恋の秋」があるが、これまた主人公はビオ・ワインの作り手だった。雑草が生えていても除草剤を使わずにいたので、たぶんそうだと思う。なぜ映画の舞台になるワイナリーは、どこもビオ・ワインばかりなんだろう?

 そう思っていたら、本作では両親の早すぎる死(フランスも長寿大国なのに)に、ブドウに散布した農薬が関係あることがほのめかされている。よく畑の境目を越える隣人が農薬散布しようとすると、ジャンは躍起になって怒る。

 ボルドーの例だが、こんな記事を見つけた。いくつかの農薬は、ワインの消費者には影響しないが、ブドウ畑で働く人の健康に悪影響があるという。

ワインに含まれる農薬と殺菌剤の研究 | PPCVINO | 厳選ワイン・ニュース


 ジュリエット役のアナ・ジラルドって、イポリット・ジラルドの娘さんだったのね!だんだん知ってる俳優の子供が出てくるようになったか~。

 この映画を見たのは午前の回。鑑賞後にランチに入ったのがワインバーで、ついグラスワインを注文してしまった。さすがワインバーの直輸入ものだけあって、お安い価格(300円)の割になかなかおいしかった。

 

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