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横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

第2図書係補佐

「第2図書係補佐」
又吉直樹 幻冬舎よしもと文庫

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

 

 

  先日読んだ「夜を乗り越える」(記事)が呼び水となって、本書にも手を伸ばした。かなりの読書家である著者に、「(まだ読んでいない)いい本を教えてもらえたら」という気持ちもあるが、それだけではない。

この人の文章には、中毒性がある。
たとえるなら、フランス産のチーズみたい。(←ほめ言葉です!)


僕の役割は本の解説や批評ではありません。
……
自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。

 

 とあるように、本そのものは簡単なあらすじ紹介のみで、エッセイがほとんど。エッセイの内容は、本と関係があるような、ないような。貧しかった子供時代のこと、サッカーの強豪校でレギュラーだった話、沖縄でのこと、上京後のこと……。読者としては本の話も詳しく聞きたいのだが、エッセイも可笑しい。

 


 玄侑宗久の「中陰の花」を紹介する箇所では、手相を占ってもらったエピソードを語っている。著者は当時26歳。占い師は、「26…27…34…35あっ!」と声を上げ、著者と友人は怖くなる。35歳でいったい何が起きるのか?

 2016年現在に本書を読んでいる人は「この人の35歳って、去年じゃん?」。つまり、芥川賞を受賞することを、占い師は予言していたんじゃないのか?

 26歳の又吉青年には「アナタ、35歳で死にませんよ!」と教えてあげたい。

 また、太宰治の本を紹介する箇所では、かつて著者の住んでいたアパートが、思いがけず、昔太宰が住んでいた住所に建っていると判明する。いくら太宰を愛読するといえど、こんな偶然はなかなかない。

 ちなみに、結婚前に家人が住んでいたのが三鷹だったので、私はこのページを見せてみた。土地勘がある人なら、「ああ、あの辺りか」と言うのではと思い。すると、「自分が住んでいたのはこの近所だ」と言い出した。ええっ!? ということは、近所を歩きながら、太宰ファンや、未来の文豪・又吉氏とすれ違ったのだろうか。家人も何度か引越しているので、時期を確認する必要はあるけれど。

 本書で紹介される作品は純文学、日本文学だけかと思いきや、ミステリや海外文学も含まれていて、ちょっと嬉しい。まだ出会っていない海外の名作に、著者がどんな感想を抱くのか、聞いてみたい。ミステリにも、純文学に負けない傑作があるのよ~。

 巻末の中村文則さんとの対談が貴重。内容の濃い文学談義なのだが、印象に残ったのは中村さんの「海」という言葉。

でも、又吉くんは本を研究したわけじゃなく、本を大量に読んだんですよ。
で、大量に本を読むと人間の中に何が起こるかと言うと、変な海みたいなものが出来上がる。
……
純文学っていうものをたくさん読んだ人っていうのは、自分の内面に自然と海みたいなものが出来上がるんです。

 

 著者の中の「海」が、お笑いの舞台や、小説、俳句などの創作につながっている。

 純文学よりもミステリ(しかも外国産)を大量に読んだ私は……何色の水が溜まっているんでしょう。誰か教えてください。

 この文庫本が出たのは今から5年前。表紙の、和服姿の著者に「若い!」と思ってしまった。芥川賞を受賞するよりずっと前だけど、この姿はまさに”文豪”。

 そして先日Eテレで「オイコノミア」を見ると、どこか顔色が悪く、オバチャンは心配になった。ライブもやって、原稿も書いて、睡眠時間を削っているんじゃないかな。「オイコノミア」で、休養の大切さを学んだんだから、ちゃんと休んでね……。

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