『京都、パリ この美しくもイケズな街』鹿島茂、井上章一 プレジデント社
フランス文学者の鹿島茂氏と、『京都ぎらい』の著者として知られる井上章一氏の対談。軽い気持ちで手に取ったが、熟読してしまった。
京都とパリを比較しながら、教科書にはまず出てこない裏側から語った文化論。大学の仏文科で「フランス文学史」「フランス文明史」という授業があったけど、あの時の教科書を表側とするなら、本書の視点は紛れもなく裏側と言っていい。だって、「パリの娼館はスパイの温床だった」なんて話、女子学生の多い仏文科でまず聞けないから。
「京都人から見た東京、リヨン人から見たパリ」には、かねてから個人的に思っていた「リヨン=京都」説が裏付けられた。リヨンにはかつて首都があったこと、美食、絹織物(京都には西陣織がある)、独特の言葉などなど。ああ、やっぱりそうか。
鹿島先生の都市論というかフランス関連の本は何冊か読んできたけれど、それでも知識の量に圧倒される。過去から現代まで、一本の太い糸がつながった。本書に出てきた裏側の話をもう少し若い頃に読めば、もっと深くフランスという国を理解できたんじゃないか。そんな気がする。
『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン著 羽田志津子訳 早川書房
英国ケント州にある高級高齢者施設で、未解決事件の謎解きを楽しむ<木曜殺人クラブ>。謎の経歴を持つエリザベス、元精神科医イブラヒム、元労働活動家ロンに、元看護士ジョイスが声をかけられ参加する。
そこへ土地開発をめぐり殺人事件が起こってしまい、彼らはこの事件を解決しようとする。
高級老人ホームの高齢者が素人探偵として活躍する話といえば、コリン・ホルト・ソーヤー『老人たちの生活と推理』などの<海の上のカムデン>シリーズがある。あちらをコージー・ミステリーと呼ぶなら、本書は王道の英国推理小説。只者ではないエリザベス(元諜報部員かな)以外にも、元医師、元教授など富裕層というより頭の切れる人たちの集団なのだ。
かと思えば、連れ合いを失った男女の入居者同士でほのかな交遊もあるし、自室のキッチンでお菓子を焼いて来客をお茶でもてなすこともできるのだ。優雅でユーモラスなところもある。英国らしいというか。
情報収集のために警察を巻き込む必要があるのだが、その方法が巧妙。警部のクリスや巡査のドナの描き方も良い。
題名はアガサ・クリスティのミス・マープルものの『火曜クラブ』から来ているという。TV司会者・プロデューサーである作者のデビュー作だが、賞を総なめにしたのも納得。
続編も出た。
【追記 2022年】
2冊目を読んだところ、巻末に「映画化する」との情報が! 誰が演じるのか気になる。特に、エリザベス役。
キリスト教が広まる前のヨーロッパに存在していたケルト文化。ケルト諸語を基盤としてケルト文化をとらえ、歴史・神話・美術・考古学など さまざまな角度からその全体像にせまる。巨石文化、異界、装飾写本、ドルイド、アーサー王伝説などなど。
ローマ帝国に追いやられ、消えたケルトがなぜ現代になって研究されているのか。18世紀以降、「再発見」があったという。ロマン主義だったり、アイルランドの民族運動(20世紀にはアイルランド独立につながる)、復興したケルト美術のデザインが商業デザインと結びつき、百貨店などで販売されたことなどがきっかけとなった。
大学の恩師がこのような研究をしていたので、1990年代からケルト関連の本を読んでいた。
その頃は、ケルトと言えば、フランスのブルターニュ、アイルランド、英国ならコーンウォール、ウェールズ、スコットランドを指していたと思う。
だが本書によれば、上記に加えてイベリア半島にもケルト文化圏があったらしい。30年の間に、色々と出てきているのだなあ。
以前、アイルランドのダブリンまではるばる見に行った「ケルズの書」だが、現在ではなんと日本語版が出ている。翻訳は鶴岡真弓さん。早く取り寄せなくては。
さらに、ダブリンにある写本はオンラインで全ページ閲覧できるらしい。うわあ、そっちも気になる。
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