横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

出版翻訳を実現するには

 

 翻訳実績の有無にかかわらず、どうすれば出版翻訳を実現できるのか? 思うところをつらつらと書いてみます。

1:出版社への持ち込み
2:自費出版クラウドファンディング
3:電子書籍

 

1:出版社への持ち込み

 日本で未訳の原書を見つけて「この本を翻訳したいな」と思ったら、まず出版社へ企画を持ち込みます。過去に本を出したことがあれば、お付き合いのある出版社に、ジャンルが合わなければ、合いそうな出版社にあたります。

 とはいえ、どこの出版社でも良いわけではありません。企画の「持ち込み可」な出版社と、「持ち込み不可」な出版社があるからです。どこなら「持ち込み可」なのか、『あなたも出版翻訳家になれる』(イカロス出版)あたりが参考になるかと思います。巻末に出版社の一覧が掲載されていて、「持ち込み可」と書いてあるところがあります。

 

 ……が、最近は出版社もシビアで、確実に売れそうな本でなければなかなか「出しましょう」とはなりません。

 そこで「出版社に持ち込みしよう」と思った時、こちらの本を一読するのをお勧めします。

 著者の寺田真理子さんは何冊もの翻訳書・著書を出されていますが、企画を通し、出版を実現するまで苦労があったとか。実現に向けてどんな工夫をしたのか、ノウハウが惜しみなく書かれています。

 出版翻訳初心者向けに基本的な手順も載っていますが、既に何冊か本を出したことのある経験者にも参考になります。ターゲットとなる読者を明確にする、同じ企画書であっても持ち込む出版社の特性に合わせてリライトするなど、今すぐ役に立つヒントが満載です。

 出版翻訳者のインタビューもあり、本を出す工程は実に様々。ノウハウも重要だけれど、いちばん重要なのは「諦めない」ことかな、というのが本書の印象。


2:自費出版クラウドファンディング

 さて、諦めずに何社も持ち込みしたけれど、どうやら商業出版は難しそう……という場合。

 商業出版がダメとなったら自費出版という手段があります。
 今なら電子書籍という手段もありますが、古い本ならともかく、翻訳権の切れていない新しい本だと、海外の出版社にアドバンス(前払い金)を払う必要があります。先方との交渉・契約もある(エージェントを経由したとしても)ので、個人にはハードルが高そう。

 やはり日本の出版社と組んで本を出したい。

 そんな場合に、自費出版を行う出版社に企画を持ち込みます。どこでも良いわけではなく、翻訳書を出した実績がある出版社を探しましょう。

 

 でも、自費出版には結構なお金がかかります。

 そんな時は、出版をサポートするクラウドファンディングがあります。

 たとえば「グリーンファンド」というクラウドファンディングには、出版のカテゴリがあります。
  

greenfunding.jp

 さらに、ここで作った本は「サウザンブックス」から販売されます。
 

thousandsofbooks.jp

 「バンドデシネが多いな~」と思いますが、同社代表がバンドデシネ翻訳家の原正人さんだからでしょう。

 販売中、またはクラファン実施中の本を見ると、どれも商業出版で出せそうな本ばかりですが……。

 もちろん、出資者を募るには「良い本」であることが大前提です。なかなか簡単には全額集まらないかもしれないけれど、何割かでも集まれば、自己負担額は小さくて済むかもしれません(追記:クラウドファンディングによって全額達成が必要なケースと、一部達成でも成立するケースがあります)。  


 また、「Ready for」というクラウドファンディングでは、以前、翻訳出版の資金を募るプロジェクトを見かけたことがあります。確か、編集者の方が立ち上げた個人出版社でした。

 もしかしたら他にも翻訳出版を支援するクラウドファンディングがあるのかもしれません。


3:電子書籍

 私個人は、まだ翻訳書を電子書籍で出版した経験はありません。

 ですが、先輩が電子書籍で古典ミステリを翻訳出版されていました。最近はAmazonでも、翻訳者が個人でKindleで出版しているケースを見かけます。いずれも原書は古い本なので、翻訳権は切れています。原書を出した海外の出版社と交渉する必要もありません。

 ただし、電子書籍で「利益を出そう」と思うとまだまだ大変なようです。先輩の貴重な体験談を紹介します。 
  

honyakumystery.jp

 この頃から数年がたち、今では電子書籍ユーザーも増えていると思います。

 私の場合はフランス語がメインですが、いつか古い本を発掘して電子書籍で翻訳出版するのもアリかなと思います。