「ベルファスト」Belfast
監督:ケネス・ブラナー
出演:ジュード・ヒル、カトリーナ・バルフ、ジェイミー・ドーナン
<あらすじ>
1969年、英国・北アイルランドのベルファスト。9歳の少年バディの住む街で、ある時からプロテスタント系住民とカトリック系住民が争いを始めた。英国軍兵士が派遣され、バリケードが築かれた。父親はロンドンで仕事をし、2週間に一度だけ帰ってくる。上司からは仕事の腕を評価され、家も用意するからロンドンに引っ越さないかと提案されている。だが、ベルファストでずっと育った母は、「この街を離れたくない」と拒む。バディも優しい祖父母や、大好きなクラスメートのキャサリンと離れたくない。だが、どんどん街は危険になり――。
俳優・映画監督ケネス・ブラナーの自伝的映画。
映画の冒頭と最後、現在のベルファストの街がカラーで映される。塀の向こうでモノクロに切り替わり、そこから1969年の世界が始まる。だが、一度だけカラーになる部分がある。家族と一緒に演劇を見に行った時、舞台の上の俳優や照明はカラーなのだ。後に俳優の道へ進んだケネス・ブラナーにとって、印象に残る特別な体験だったのだろう。家族で映画館に出かける場面も、実に楽しそうだ。
お金のことで喧嘩をするけれど、普段はバディと兄に優しい素敵な両親。近くに住む祖父と祖母も、バディをかわいがってくれる。おじいちゃんがとにかく粋で、初恋に悩むバディにアドバイスをする。子供相手でも、ちょっとした一言に含蓄がある。
バディ役のジュード・ヒルは賢くてやんちゃな少年を好演。祖母役のジュディ・デンチは、「シェイクスピアの庭」「オリエント急行殺人事件」に続いて出演している(もはや常連)。母親役のカトリーナ・バルフは1960年代に流行った膝上丈のスカートをおしゃれに着こなし、きれいなお母さん。父親役のジェイミー・ドーナンは、家族を愛するかっこいい父ちゃん。
クリスマスプレゼントの中に「サンダーバード」のグッズと衣装があり、確認すると、英国では1965~1966年にテレビ放送され、1966年、1968年に映画が公開されていた。
バディの初恋の相手がキャサリンという。ケネス・ブラナーがエルキュール・ポワロを演じた「オリエント急行殺人事件」には、原作には登場しないカトリーヌ(キャサリンのフランス語読み)というかつての恋人だか初恋の相手だかの写真が出てきた。何か意味があるのだろうか。
映画では、子供の視点でプロテスタントVSカトリックの争いと説明されているが、「北アイルランド問題」の背景はとても根が深い。「ベルファスト合意」に至るまで、かなり長い時間がかかった。
私が若い頃には「北アイルランドのベルファスト」という名前は、爆弾テロのニュースでよく聞いた。ある世代より上の人なら、覚えているだろう。英国とアイルランドを旅行したことがあるけど、ベルファストというか北アイルランドは、観光目的地として検討したことがなかった。
【ケネス・ブラナーのインタビュー】
アカデミー賞ノミネート作品で、脚本賞も取ったのに、最寄りの上映館では一日3回から一日1回に減らされてしまった。いい映画なのに。
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