少し前だけれど、フランスの作家ルネ・レウヴァン(René Reouven)さんの訃報を見つけた。今年の3月に、94歳で亡くなられたとか。
Je fais un vœu pour l’âme.
このブログでは、まだ「ミステリ・マガジン」に掲載した短編のことは書いていなかったと思う。
フランス語の原文を見つけたのは『L'univers de Sherlock Holmes au Louvre des antiquaires』で、これはSSHF(フランス・ホームズ協会)が1997年に出した冊子である。
この時の展示を見た話はこちら(ルーヴル ホームズ展の思い出)
日本に帰国後、翻訳会社で働いていたが、この冊子を読み返すうちにレウヴァンさんの書いたホームズ・パスティーシュを発見。題名は「La Capitaine Fatigué」なので和訳すると「疲れた船長の事件」となる。JSHCの先輩で翻訳者の日暮さんに話してみたところ、「ミステリ・マガジン」のホームズ特集号に翻訳を載せることに。
掲載の決め手となったのは、「フランスらしい」作品だったこと。パリが舞台だったり、ジュール・ヴェルヌ絡みだったり、ルーヴル・ホテルも出てくる。
ルネ・レウヴァン「疲れた船長の事件」は、フランスのホームズ協会<SSHF>(Société Sherlock Holmes de France)が1997年4月にパリでホームズ・イヴェントを開催した際に発行した小冊子 L'Univers de Sherlock Holmes に掲載された。いわゆる”語られざる事件”を扱っているが、正典「ブルース・パーティントンの設計書」の続篇とも言える。前述のように今年はヴェルヌ没後百年なので、その記念にもなるだろう。
レウヴァンはポケミス『そそっかしい暗殺者』(1791年)の著者と言えば、本誌読者にはわかりやすいかもしれない。『ハヤカワ・ミステリ解説総目録』にもあるように、1925年生まれで、アルジェリア生まれのフランス人。本名のルネ・スュッサン名義では多くの普通小説を発表する一方、『そそっかしい暗殺者』では71年フランス推理小説大賞を受賞した。
訳者の寺井杏里氏によれば、ミステリばかりでなくSF、ラジオドラマ、評論も発表し、多彩な活躍をしている。またホームズ・パスティーシュでは、2002年にドゥノエル社から出版された千頁のアンソロジー Histoires Secrets de Sherlock Holmes に、既刊の5長篇と3短篇が収録されているという。
(「ミステリ・マガジン」No.599 2006年1月号 「冬の夜長にホームズを」より)
ちなみに原文はこんな感じ。挿絵は、来日したこともあるSSHFのジャン=ピエール・カニャさん。
挿絵にはパリの街並みが描かれている。シテ島のノートルダム寺院が
こちらは、フランスの偉人たちが埋葬されているパンテオン
フランス語版の発行元はSSHFなので、翻訳許可をとろうと会長さんに連絡すると、作者であるレウヴァンさんの住所を教えてくれた。手紙を書いたところ、快諾してくださった。
後にフリーランス翻訳者となった私は、レウヴァンさんの別の作品を翻訳し、『シャーロック・ホームズの気晴らし』の邦題で出版することになるが、既に2005年に手紙をやりとりしたこともあり、質問を出し、回答を受け取るのもスムーズだった。
2005年の手紙に「いつか、他のホームズ・パスティーシュも翻訳してみたいです」と書いたところ、レウヴァンさんが出版社(ドゥノエル社)に手配してくれて、うちに全集がどかんと届いたっけ。実は単行本の方なら、パリで見つけて買っていたんだけれど……。その後、本当に翻訳出版したので、約束を果たせて良かった。
他のホームズ短編とか、別のパスティーシュ(贋作)だとか、翻訳したい作品はいくつかあるのだが、なかなか出版社に企画が採用されず……。ただし、諦めたわけではないので、なんとか形にしたいと思っている。
【関連記事】