「世界一と言われた映画館」
監督:佐藤広一
ナレーション:大杉漣
かつて山形県酒田市に存在した伝説の映画館「グリーンハウス」をめぐるドキュメンタリー映画。「グリーンハウス」は、かの映画評論家・淀川長治に「世界一の映画館」と称された。
有楽町スバル座で鑑賞したが、往年のグリーンハウスと同じく、開演前にベルの代わりに「ムーンライト・セレナーデ」を流してくれるという粋なはからい。館内もどこかレトロな雰囲気が漂っている。
グリーンハウスは1976年、酒田大火の火元となり、焼失した後は映画館として再建されることはなかった。それでも、当時を知る人々の語り口には、忌まわしさのかけらはみじんもなく、グリーンハウスが最も輝いていた時代を誰もがいとおしそうに語るのが印象的だった。
かつてグリーンハウスで働いていた者、観客として訪れた者(中には近所だったため、家が焼けてしまった者も!)など、新幹線が通るより前の東京と地方の情報格差が大きかった時代に、東京にひけを取らない香り高い文化サロンを所有していたことを、皆が誇りに思っている。
証言者の一人である歌手の白崎映美さんは、「上々颱風」のボーカル。標準語と庄内弁が混じったキュートな語り口。公演で全国各地を回った彼女の「どこの町も同じようになっちゃって」という言葉は重い。
日本大学の仲川秀樹教授は、参考文献の一つ『もう一つの地域社会論 酒田大火30年「メディア文化の街」ふたたび』を書いている。酒田大火は1976年に起きたが、その後郊外にショッピングモールやシネコンが建ち始めた。時代の変化につれて、他の地方都市では中心部の商店街や映画館がすたれた。あのままグリーンハウスが存続したら、どんな未来が待っていただろうか?
上映が始まる前に、別のドキュメンタリー映画「YUKIGUNI」のトレイラーが流れたが、これは酒田の有名バーテンダーを取材した作品。そう、本作に登場した「ケルン」のバーテンダー井山計一さん(御年92歳!)である。
「ケルン」といい、佐藤久一の「ポットフー」といい、酒田を訪れたくなった。
グリーンハウスで配っていたフリーペーパー<グリーンイヤーズ>の複製
この映画を見に行ったのは、以前『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』という本を読んだから(記事はこちら)。グリーンハウスと支配人・佐藤久一のエピソードが印象深かった。
もう一つ、大杉漣さんの仕事だから。もうすぐ漣さんが亡くなって一年がたつけど、生前のお仕事はあらかた公開済だと思っていたら、思いがけず、ナレーションを担当した本作の情報が飛び込んできた。今頃になって、ひょいとお年玉を頂いたかのよう。お空の上から、この映画が上映されている様子を見ているのかなあ。
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