『小犬のこいぬ』うかうか イーストプレス
今年の初笑いは、かわいい犬の漫画で。
翻訳データが来てしまい、暮れは大みそかまで仕事していた(T T;)
「正月三が日は、おら絶対休むんだ! 漫画読んでゴロゴロすんだ!」
この漫画を読むのを励みにしてな。
登場するのは犬ばかり。絵柄はかわいいけどストーリーはシュールで、とにかく展開が読めない。「ええっ、そっち方向に行くの!?」あさっての方というか、宇宙の方。
店や建物の名前も「犬」になっていたり、犬の寝ぐせとか、細部がとても凝っている。
脇役の犬たちもかわいくて面白い。残業中に出てくる「チータカチータカ」の小人ならぬ小犬(主人公よりずっと小さい)たちは……小人さんなら仕事手伝ってくれるんだろうけど、そこはほら、小犬だからさ……。
作者は若い方だと思うんだけど、出てくる歌がなぜか昭和の懐メロ(のもじり)ばかり。スナックの場面の歌なんて、藤圭子の「圭子は夜ひらく」っぽいぞ。昭和のキッズも楽しめる一冊。
P.G.ウッドハウスの「ジーヴス」シリーズが漫画になっていた!
独身貴族ライフを謳歌する青年バーティー・ウースターと、彼に仕える切れ者の従僕ジーヴスの組み合わせは、ドロシー・セイヤーズの書いた青年貴族ピーター・ウィムジイ卿とバンターのコンビを思わせる。ちょうど時代も第一次世界大戦の後だし。
ファッションセンスがいまいちなバーティーが選んだ服に、ジーヴスが態度や表情で「それはダメです」と表現するくだりとか、苦手なアガサ伯母さんから逃げ出すくだりとか、漫画ならではのおかしさがある。この時代の英国の上流社会特有のマナーなどもあるし、こうやってビジュアルで見ると分かりやすい。
現代の日本人読者には分かりにくいと思われる用語や風習については、国書刊行会版の翻訳者である森村たまきさんが解説文を書いている。
書いていて思い出したが、確か「ジーヴス」は英国で実写化されたはず。名優スティーブン・フライがジーヴスを演じていたっけ(ガイ・リッチー監督の映画「シャーロック・ホームズ」で変人みのあるマイクロフトを演じている)。
よし、これもそのうち見ようっと(自分用メモ)。
この時代の使用人の世界については、この辺りがお勧め。
引退した刑事ホーソーンがホームズ役、記録係兼アシスタントであるワトソン役は、なんとアンソニー・ホロヴィッツ本人!
ホロヴィッツが脚本を書いたドラマ「刑事フォイル」の裏話がちょこっと出てくるのが嬉しい。そういう裏話、もっと聞きたいぞ!! もちろん『絹の家』や『女王陛下の少年スパイ!アレックス』シリーズ、ハリウッド映画の脚本の話題も出てくる。
ワトソン役として捜査に同行し、”ホームズ”と同じものを見て、同じ話を聞いて、同じ情報を得ているはずなのに、どうして”ホームズ”と同じ結論にたどり着けないのか……。ある意味、読者の目線に立ったフェアな描き方かもしれない。
このコンビの続編『その裁きは死』が出ているので、こちらも読もう(メモメモ)。
『写真家ナダール』小倉孝誠 中央公論新社
本書のことは、池澤夏樹さんの本で知った。19世紀フランス文学を読む人なら、ナダールの名を知っているだろう。写真家として、またボードレールなど文学者の友人として、文学史に名前が登場するのだ。
著名人を自前のスタジオで撮影した写真が残っており、後世の人間がたとえば「若い頃のサラ・ベルナールってこんな顔」と知っているのは、ナダールの写真のおかげである。結構「見たことある」という顔ぶれが掲載されている。作家アルフォンス・ドーデがオダギリジョーに似たイケメンだなんて、初めて知ったわ。
ナダールは写真家になる前は風刺ジャーナリストだったり、写真以外にも新しいものが大好きで、気球にまで乗っていたとか、ジュール・ヴェルヌとも友人だったり、意外な経歴の持ち主だった。あいにく日本語に翻訳されてはいないけれど、ナダール自身も本を書いている。19世紀フランスの貴重な記録だ。サラ・ベルナールの著書ともども、いつか読んでみたい。