横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ベルナール・ビュフェ展@文化村ミュージアム

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 フランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928~1999年)の作品は、鋭い直線を用いたタッチが特徴的。パリで過ごした若い頃の作品は暗い色彩が目立ったけれど、南仏プロヴァンスに長期滞在すると、陽光のおかげか、徐々に明るい色彩が現れてくる。

 不気味な雰囲気の絵もあれば、すっきりした花の絵もある。写実的な絵を描いていた時期を除けば、どの作品を見ても「ビュフェの作品だ」と分かる。

 妻となるアナベル(歌手、作家)と出会うと、次々と彼女をモデルにした作品を描く。女性像は、ほとんどアナベルがモデルなんじゃないかな。画像検索してみると、目鼻立ちのくっきりした、どこかマニッシュな雰囲気もある黒髪の美女。歌手のジュリエット・グレコや、作家のフランソワーズ・サガンとも交流があり、ビュフェがサガンと知り合ったのはアナベルの紹介らしい。 

ブラームスはお好き (新潮文庫)

ブラームスはお好き (新潮文庫)

 

 

 ベルナール・ビュフェの絵を知ったのは、フランソワーズ・サガン新潮文庫の表紙だった。今はほとんど違う表紙に代わっているが、田舎の高校生だった自分には、サガンの小説とビュフェの絵はなんだか眩しかった。大学受験を控えて、進路をフランス文学科に決めたのは、当時深夜にノーカットでテレビ放映されていたフランス映画と、新潮文庫サガンの影響だろう。

 

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 静岡県にある「ベルナール・ビュフェ美術館」には、24年前に行ったことがある。当時働いていた会社の同僚の結婚式が三島であって(同僚は静岡県出身の男性と結婚したのだ)、早めに現地入りしてタクシーを飛ばし、足を運んだ。

 どうして日本にビュフェ美術館があるのか(フランス本国にすらないのに)、どこにも理由が書かれていなかった。今回の展示で何か分かるかと期待したけれど、やっぱり何も分からない。好景気だった時代の日本人が金にものを言わせて……というのではなさそう。ビュフェも奥さんも、何度か訪れているし。富士山の麓という立地が気に入ったのだろうか? 仏語のインタビューでもググってみるか。

 同僚の結婚式の後に会社を辞め、フランスに語学留学したが、フランス人の教師に「ベルナール・ビュフェの絵が好き」と言ったら、彼女は嬉しそうな顔をした。もしかしたらアートが好きな人だったのかもしれない。もっと話しておけば良かったかな。


 久しぶりに美術展へ行った。空いていそうな平日の午前中に行くと、他にも来館者はいたけれど、人が少なくて絵が見やすい! 好きな絵を独り占めできる! 大きな絵も、後ろに下がって全体をじっくり眺めることができる! 美術館の人には申し訳ないが、かつて海外で地方の小さな美術館を来訪した時のような楽しさだった。