ドラマ「名探偵ポワロ」を動画で全作見た後で、ちょうどこの本が出たので早速購入。全70作品の解説と、合間にコラムが入っている。
著者は英国文化、特に使用人について研究してきた人なので、作品ごとに登場する使用人についても解説している。「名探偵ポワロ」の依頼人はアッパーミドル~上流階級が多く、依頼人の屋敷の規模や経済状況によって使用人の人数が変わる。たとえば、大きな屋敷なのに使用人が少ないという場合は、その家は経済的に苦しいという意味だという。
アガサ・クリスティ―作品には「働かなくてもいい身分」の人たちが出てくるけれど、本書によると、ポワロの活躍した頃には、相続税や戦争、世界恐慌の影響で、そういう身分の人たちが経済的に苦しくなっていたという。
英国に限らず、税制度は違うけれど、フランスなんかもそういう事例があったのを思い出した。ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』で、おぼっちゃまの主人公が急に働く羽目になるのだが、ヴィアンの父親がモデルだったという。ちょうど、世界恐慌を経験した世代だ。
各ドラマの解説ページに原作となった小説のタイトルがあり、「ドラマを見た後で小説を読もう」という読者には助かる。小説とドラマで違う題名だったり、小説から違う風に脚色されたりするので。
登場人物の紹介を最小限に絞ってあるけど、スペースが許すなら、もう何人か紹介しても良さそうな気もする。紹介されていない人物があらすじに出ていて「あれ?」となるから。
コラムはネタバレありなので、ドラマを視聴もしくは小説を読了してから読んだ方がいい。
その昔、求龍堂から出た『テレビ版 名探偵ポワロ』(ピーター・へイニング著)という本を買ったけれど、1990年代の本なので、当然ながらドラマは途中までしか紹介されていない。最終作まで完成した現在だと、本書と比べて物足りなく思うだろう。
ガイド本として便利だけれど、一つ不満を挙げるとすれば、字がかなり小さい。眼鏡をかけても見づらい。フォントを大きくしてページを増やすか、新書ではなくもっと大判サイズで出しても良かったのに。1作品を見開き2ページで紹介するのにこだわったんだろうが。
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