『マクシミリアン・エレール』
アンリ・コーヴァン著 小林晋 訳 ROM叢書13
1871年に発表されたフランスのミステリ。日本では、松村喜雄『怪盗対名探偵 フランス・ミステリーの歴史』や、小倉孝誠『推理小説の源流 ガボリオからルブランへ』で紹介された。
小説の舞台は1845年。参考までに、エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」(アマチュア探偵デュパンが登場)が発表されたのが1841年。
「シャーロック・ホームズに似てる」「コナン・ドイルはこの小説を読んだに違いない」とさんざん言われただけのことはある。シャーロキアンが読んだら納得するだろう。アマチュア探偵と友人のコンビに加え、暗号解読や変装、密室殺人など、ミステリの基本が満載。
主人公マクシミリアンは30歳くらいで、長い黒髪、白い肌、長身ですらっとした体つき。元弁護士で頭は切れる。だが世捨て人になり、猫を相棒にずっと引きこもっている。後半には語り手に心を開くようになるが、かなりツンデレ。
知り合いに頼まれて、マクシミリアンに会いに行く語り手は、ワトソンと同じく医者。自分のことはあまり語らないが、厭世的になっているマクシミリアンが唯一心を開くというところから、温和で寛容な人物と思われる。
もう、「ホームズとワトソン」というより、「シャーロックとジョン」の関係に近いのではと思ったのは、私だけ???
海外の小説を読むときは、よく映画のキャスティングを考えるんだけど、マクシミリアンの描写を読むなり、「シャーロック」のベネディクト・カンバーバッチに脳内変換されたよ。
翻訳者の小林晋さんは、レオ・ブルース作品の翻訳で知られる。古典ミステリに造詣が深く、文体は19世紀ヨーロッパ文学の香りがする。
ところで、パリの地名だけど、サン・ロッシュ → サン・ロック(Saint-Roch)では? 松村喜雄氏の本でもサン・ロシュになっていたけど……。機会があれば、サン・ロックに修正をお願いしたい。