横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

コレット

コレット」Colette

監督:ウォッシュ・ウエストモアランド
主演:キーラ・ナイトレイ

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 フランスの女流作家コレットの伝記映画。クラシックな美貌にボーイッシュな雰囲気もある英女優キーラ・ナイトレイが、若い頃のコレットを演じている。

 

 1873年生まれのガブリエルは、年上の人気作家ウィリーと結婚し、パリに出る。田舎から出てきた少女は、ベルエポック期の華やかなパリの文壇、社交界に足を踏み入れる。

 ウィリーはゴーストライターを何人か抱え、妻ガブリエルにも小説を書かせる。少女時代のことを書いた半自伝的な小説に夫が助言を与え、手直しして出版したところ、大ヒットとなる。この「クロディーヌ」シリーズは続編を求められ、舞台化され、広告にもなり、若い女性がヒロインの髪型を真似るなど、社会現象にまでなる。

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『学校のクロディーヌ』表紙

 セレブとして成功しながらも夫婦関係はうまく行かず、うぶな田舎娘から自立した大人の女性となったガブリエルは、「コレット」として、ウィリーから離れて行った。

 


 コレットの小説は、遠い昔に何冊か読んだきりで、あえて伝記を詳しく確認せずに見に行った。うっすら覚えているのは(文庫本のあとがきか何かで読んだのだろうか)、作家でありながら、一時期舞台にダンサーとして出演していたこと。当時のフランス女性で、作家という知的表現と、ダンサーという身体的表現はとてもかけ離れているように思えて、「なぜダンサーになったんだろう?」という疑問が永らくあった。

 映画では、あるサロンでパントマイマーのヴァーグと知り合い、やがて友人になり、地方巡業について行くことになる。もちろん、ダンサーとしてトレーニングも受ける。同性の恋人ミッシーとの出会い、ウィリーと離れたいという気持ち、自立したいという気持ちもあっただろうが、いつ頃から身体的表現の方に関心を持つようになったのだろう? 


 斬新な振り付けと露出度の多い衣装は、当時の観客には刺激的だったはず(同性愛的な演出も)。だが、20世紀初頭のパリは、モダン・ダンスコンテンポラリー・ダンス)が誕生した頃。もう少しするとジョゼフィン・ベイカーが登場するし、女スパイ、高級娼婦として知られるマタ・ハリもエキゾチックな踊りを舞台で披露した。コレットが<ムーラン・ルージュ>で披露したのはエジプト風、マタ・ハリインドネシア風のダンスで、植民地などエキゾチズムの影響だけでは説明がつかないが、なぜか衣装の露出度が高かったというのは共通している。


 結婚当初のウィリーとコレットの関係は、夫婦というより教師と生徒のよう。作家としての才能はいまいちだったらしいウィリーは、「売れる作品」への嗅覚が鋭く、小説の舞台化やメディアへの露出、広告宣伝など、プロデューサーとしての手腕にたけていた。お菓子の缶に「クロディーヌ」が描かれたり、その巧みなマーケティング戦略に、女優のサラ・ベルナールを思い出してしまった。彼女もまたメディア戦略の達人だった(記事はこちら)。

 10歳以上離れた年の差夫婦で、年上亭主が若い妻にモラハラをする、という関係は、映画「グッバイ、ゴダール」(記事はこちら)で見たような、かつてのゴダールアンヌ・ヴィアゼムスキーにもよく似ている。業界で成功している夫を尊敬していた若い妻が、やがて自立心に目覚め、「この亭主、なんかおかしい」と気付いてしまうところとか。

 

 舞台版「クロディーヌ」で主演した歌手・女優のポレールは、以前ヴィクトリア時代のコルセットの資料で写真を見たことがある。砂時計みたいな細さ。映画で、動いて話すポレールの姿を見られて嬉しい。

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 コレットの故郷、ブルゴーニュのサン=ソヴ―ルには、記念館がある。

www.mmm-ginza.org