『園芸家の一年』
カレル・チャペック 飯島周訳 平凡社ライブラリー
現在、ドラマ「植物男子ベランダー」シーズン2を放送中。シーズン1(記事はこちら)の最終回で、この本の一部を朗読していた(ドラマでは『園芸家12か月』)。いくつか和訳があり、平凡社版がいちばん読みやすいらしいとのことでチョイス。
印象として、土づくりの話にかなりページが割かれている(気がする)。ベランダなら、植木鉢の土ぐらいで済むが、庭や畑となると面積が広すぎて大変なことになる。肥料を手に入れたり、耕したり、素人が野菜や果物を作るより「買った方が安い」と言われる所以。
気候が日本と違うけど、春の訪れがやや遅い以外は、北半球なのでほぼ同じかと。昔は現代のように衛星画像で気象をかなり早く知る、ということができなかったから、プロの農家ともども、素人園芸家も天候に振り回されたことがよく分かる。
草むしりにヤギを利用しようとするくだりが笑える(飼い主に断られるが)。良い肥料を手に入れたくて、街で馬車を引く馬の落とし物を、園芸肥料用に持って帰りたいと葛藤するくだりも。
余談だが、以前「猫のしっぽ、カエルの手」を見てベニシアさんの庭づくりをうっとり眺めたが、マンション暮らしということもあって「自分も真似しよう」とは思わない。その理由は……実家が田舎にあり、庭木や花壇、芝の手入れの大変さを嫌と言うほど知ってるから! 子供の頃のお手伝いで、剪定した庭木の枝を拾って運ぶとか、芝刈りとか、サツキの盆栽の咲き終わった花を摘まされたり……おおう、思い出すのも恐ろしい!
なにしろベランダでプランターの植物さえ、水のやりすぎで枯らしちゃうんだから、庭や畑なんか持った日には、一日手入れに費やして振り回されて、もうPCの前に座ることすら叶わんよ。
巻末には、作中に登場した植物の一覧が。そして解説は『ボタニカル・ライフ』のいとうせいこうさん。つまり、「植物男子ベランダー」の原作の著者。あ、なんか環がぐるっと一周したな。
合間に画家・作家だった兄ヨゼフによる味わいある挿絵があり、ユーモラス。
冒頭に、カレルとヨゼフのチャペック兄弟が庭仕事に励む様子が写真で紹介されている。別荘の写真もあるが、もしやカレル夫妻が愛したこの場所だろうか。
カレルは45歳で結婚し、この別荘を手に入れたが、ここでの園芸ライフを楽しんだのはわずか3年。冬の嵐と洪水から庭を守ろうと奮闘した挙句、最後には肺炎にかかって亡くなったという。
チャペック兄弟が本書の文章と挿絵を新聞に掲載していたのが、ナチスドイツが侵攻する前夜の、チェコにとっては暗い時代だったと知って驚いた。外の世界では闘い、庭では束の間の安らぎを得ていたのだろう。
チェコには昔行ったけど、ミュシャと建築巡りとドヴォルザーク&スメタナ関連の場所を回って終わってしまった(かなり強行軍だったが)。今は夫妻の別荘はカレル・チャペック記念館になっているが、そっちまでは時間が足りなかったなー。ポーランド国境近くには、チャペック兄弟の記念館もあるという。