横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

それからの彼女

『それからの彼女』Un an après
アンヌ・ヴィアゼムスキー著 DU BOOKS 

それからの彼女 Un an après

それからの彼女 Un an après

 

 

 映画「グッバイ、ゴダール」(記事はこちら)を見て、原作となったアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝も読みたくなった。

 

 映画でも大規模なデモ行進や大学での討論会の場面が登場するが、その背景が本書で詳しく説明されている。先にこちらを読んでから映画を見れば良かったかな。アンヌの弟も学生運動に参加しているのは知らなかった。

 

 映画の企画のため、アンヌはゴダールと共に、それぞれビートルズザ・ローリング・ストーンズのメンバーとも会っていて、1960年代カルチャーの風を否応なしに感じる。本書に出てきたザ・ローリング・ストーンズのレコーディング風景を記録したドキュメンタリー映画は、後に「ワン・プラス・ワン」というタイトルになった。冷静に考えると、意外な取り合わせ(ストーンズ好きだから、後でこのDVD見たいな~)。 

 


 祖父であるノーベル賞作家フランソワ・モーリアックは、孫娘がゴダールと結婚したことについてどう思っているのか気になっていたが、本書を読むと出てきた。ブルジョワの令嬢らしからぬ結婚について、さほど非難はしていない様子。それどころか面白がっているふしも。

 のみならず、ある時のデモ行進の先頭を、当時80歳を過ぎていたモーリアックも歩いていたことが判明。案外この人も見かけによらず、型破りな作家だったのね。


 表紙のアンヌは「女子学生」と言われても通用する、若い頃の姿。可憐で、真面目な雰囲気。パリ大学で哲学を専攻していたアンヌは、学業を諦めて女優業に専念するが、どのみち学生運動でキャンパスは封鎖されてしまうので、もし学業を継続しようと思ったとしても、難しかっただろう。

 カンヌ映画祭が中止になったくだりは、映画「グッバイ、ゴダール」でもラジオ報道の形で間接的に登場したが、本書を読んでみて、トリュフォージャック・リヴェットといった巨匠たちが何人も、一連の<革命>に身を投じていたのに驚いた。フランスの文化人はこういう社会参加「アンガジュマン(engagement)」と切り離せないけど、劇場突入のくだりは「若い頃とはいえ、あの巨匠がここまでするの!?」とびっくり。


 映画版はゴダール夫婦の破綻という印象が強かったけれど、自伝の方は、学生運動やデモによるパリの街の混乱の印象が強い。アンヌの弟のこともあって、暴動の緊迫感が伝わってくる。もちろん、パリで起きていたことがゴダールに方向転換を促し、友人らとも決裂し、そこから夫婦の破綻のきっかけにもなったので、まったく無関係ではないのだけれど。

 フランスはカップル単位で行動するので、仲良くなった友人や映画人カップルとも離れ離れになってしまったり、討論会(アンヌにはまったく楽しめない)にも連れて行かれたり、若妻アンヌにはさんざん。やっぱりゴダールって迷惑な亭主だ。


 合間に映画「ボノー一味」の撮影が行われるが、これって、銀行強盗の「ボノー団」のこと? ジュール・ボノー役のブリュノ・クレメールは、後年メグレ警視シリーズで人気を博した俳優。アンヌ・ヴィアゼムスキーが出ていたとは知らなかった。後で見たいな。

La Bande à Bonnot (film) — Wikipédia

同じく「ボノー団」が出てくるフランス映画はこちら:

iledelalphabet.hatenablog.com

 

【関連記事】

iledelalphabet.hatenablog.com