横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

英国一家、日本をおかわり

『英国一家、日本をおかわり』
マイケル・ブース著 角川書店 

英国一家、日本をおかわり

英国一家、日本をおかわり

 

  『英国一家、日本を食べる』シリーズでおなじみの英国人一家が、またもや日本で食べまくる。あれから10年ほどたち、幼かった子供たちはティーンエイジャーになった。父親である著者は教育目的で、日本の職人の姿を見せて、勤勉さや献身といったものを息子たちに学びとって欲しいと願うが……。

 

 『英国一家、日本を食べる』では、取材も挟みつつ、うまいものを食べまくる観光客目線だったが、本書では全国各地を訪れてご当地食材に出会い(日本人でもなかなか同じことはできない)、日本食のよりディープな部分を探る。


 奥さんが紅芋にハマり、どうにか国に苗を持ち帰れないかと腐心するくだりは「ああ、さつまいものおいしさに女子が夢中になるのって、万国共通なんだ」と思ってしまった。著者が滋賀の鮒ずしに挑戦するくだりには、「日本人でも苦手な人いるから、無理すんな!」と声をかけたくなった。

 日本と英国の、食をめぐる意外なつながりも紹介されている。佐賀県にある海苔養殖場では、思いがけず英国人女性研究者の功績を知り、横須賀で食べた「海軍カレー」には、明治時代(英国ではヴィクトリア時代)の英国海軍の影響があること、北海道余市ニッカウヰスキーでは、朝ドラ「マッサン」にもなった竹鶴政孝とリタ夫人(ドラマではエリー)の物語など。

 ラーメン店主の「哲学者ぶり」については、かねがね日本人のワタシも不思議に思うところがあったので、著者に激しく同意。手軽な食べ物だったはずのラーメンなのに、長い行列ができて(人気の現れだからこれはまだ良いとして。あたしゃ行列してまでラーメンは食べに行かないな)、店主のうんちくを聞かされたり、変なこだわりを打ち出したり、研究熱心を超えて、いつしか客が置いてきぼりになったり。蕎麦屋にも、そういう店あるよね。

 最近、海外でもラーメンが人気だというけど、以前テレビで見たのは、肉食文化の欧米人は豚骨とか肉ベースのスープを好み、魚介ベースのスープは人気がないという話。まだまだ本当に「人気が出た」とは言い難いのではないか? 


 柑橘類を求めて四国に行くくだりは、非常にうらやましい。東日本に住んでいると、なかなか日本人でも四国の山間部までは足を伸ばさない。スーパーで色々な柑橘類を買えるし、通販やアンテナショップもあるけど、生産地で色々な柑橘類に出会うのは、かなり贅沢。

 麹を求めて新潟の酒蔵を訪れると、米国人のスタッフの応対を受ける。海外でワイン作りに従事する日本人の話を聞くが、日本酒の蔵元で外国人のスタッフが働いているケースも見聞きする。確か、杜氏になった人もいる。日本酒が海外の人にも受け入れられている何よりの証拠だなあと思う。

 

 このシリーズは、生産者だったり有名店に取材に行くので、なかなか自分も訪れたことのある場所は出てこないが、本書に登場する山梨のグレイスワインと余市ニッカウヰスキーは行ったことあるので、ちょっと嬉しかった。

 『英国一家、日本を食べる』が日本でも話題になり、アニメ化され、著者は日本食に関する仕事の機会が増えたらしい。以前「米を作ってみたい」と言っていたが、本書では実際に田植えに参加している。水田で足をとられて四苦八苦する著者を、すっかり大きくなった息子が助けてくれる。思いがけず、日本の田んぼで息子の成長を知るのだった。

 

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