横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

グッバイ、ゴダール

「グッバイ、ゴダール」Le Redoutable
監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ルイ・ガレルステイシー・マーティンベレニス・ベジョ

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 ジャン=リュック・ゴダールは「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」などで知られる映画監督で、ヌーヴェルバーグの旗手。語り手のアンヌ・ヴィアゼムスキーは「中国女」で主演した後、20歳でゴダールと結婚した。本作では、離別するまでの5年間を描いている。

  作家となったアンヌの自伝『それからの彼女』を基にしているが、ところどころアレンジされ、コミカルに描かれている。原題「Le Redoutable」は、ラジオで流れた仏海軍の戦艦名。 

それからの彼女 Un an après

それからの彼女 Un an après

 

 

 1968年春、パリは革命の季節を迎えていた。大学生らによる学生運動をきっかけに、社会変革を求める大衆運動がフランス全土に広がった。いわゆる<五月革命>である。映画でも、ゴダールはデモ行進や討論会に参加している。

 ゴダールが政治性を込めた最新作の「中国女」は評価がさっぱりで(支持するのは共産主義者のみ)、街で出会った市民や警官には、過去に成功した作品ばかりを褒められる。だが、映画で商業的に成功することは、現在のゴダールには受け入れ難い事実で、ローマで開催された討論会では、過去の自作を否定するトンデモ発言が飛び出してしまう。

 また、学生と労働者のストライキ運動に連帯し、警察の弾圧、政府、映画業界のあり方への抗議表明としてカンヌ映画祭中止を呼びかけ、トリュフォーら映画人と共に、実際にカンヌ映画祭を中止に追いやった(Wikipediaより)。その結果、カンヌへ出品していた友人の映画監督との仲が険悪になってしまう。

 フランス社会の変動だけでなく、ゴダール自身、映画の方向性や、政治活動への参加など、大きな転換期にあったらしい。だが、才能ある夫との結婚生活を夢見ていたアンヌの目には、気難しくて自己中な夫にしか映らない。いつしか、映画撮影のために離ればなれになると、安堵を覚えるまでになる。


 ゴダールは、最初の妻で女優のアンナ・カリーナとも5年ほどで離婚している。彼女は「気狂いピエロ」などに出演しており、アンヌ・ヴィアゼムスキーと似たような境遇かも。アンナ・カリーナの離婚理由は知らないが、もしゴダールが当時も本作のように面倒くさい男だったのなら、あまり驚かない。

 

 アンヌ役のステイシー・マーティンがとてもキュート。すらっとした長い脚にミニスカートがよく似合う。実際のアンヌは明るい髪の色だが、ステイシーは黒髪で、なぜかアンナ・カリーナも思い出してしまった。

 インタビューによると、「私が演じたアンヌは、ヴィアゼムスキーその人というよりも、60年代のアイコン的な女性たち、それからゴダール映画に出ている女たち。そのコラージュのつもりで演じています」とのことで、ちょっと納得。

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 作中、結婚直後の記者会見で、やたらとアンヌの祖父モーリアックのことを質問される。ノーベル文学賞作家フランソワ・モーリアックのことだ。モーリアック自身は中産階級出身だが、有名作家の孫であるアンヌは結構なお嬢様だったんじゃないかと思われる。

 あの質問をした記者じゃないけど、かわいい孫娘がゴダール(かなり年上でバツイチ)と結婚した時の、祖父モーリアックの反応はどうだったんだろう。


 「中国女」がパリの中国大使館で上映拒否されたというくだりが出てくる。1960年代のフランスで、中国の文化大革命について、知識人たちがどれだけ正しく情報を得て認識していたのか、はなはだ怪しく思っている。

 というのも、カナダの仏語圏の思想界でも、フランスと似たような動きがあったのだ(フランスの影響かもしれない)。「みなさん、さようなら」という仏カナダ合作映画で、主人公の偏屈オヤジは大学教授という設定なのだが、1970年代に出会った美しい中国人女性に、文化大革命に関してトンチンカンなことを言ったがために振られた。彼は晩年友人たちに「あの頃、文化大革命について理解していなかった」と反省の弁を述べる。

 カナダでそうだったのなら、フランスの知識人だって、怪しいものだ。ちなみに、偏屈オヤジことレミが影響を受けたのは、ゴダール映画である。


 白状すると、ゴダールの作品は初期の数作しか見ていない。ワタシが大学生の頃もそれ以降も、新作を発表していたのだが、どうも食指が動かなくて。1990年代には、既にゴダール作品は「難解」というイメージが付いていた。

 大学でフランス文学を専攻していた頃の思い出だが、周囲では男子がしきりに「ゴダールが~」と言ってた気がするのだ。当時はまだマウンティングという言葉はなかったが、ゴダールをだしに知識や蘊蓄を披露して、男子同士では競争を、女子に向けては「どう、オレ、映画詳しいでしょ?」とアピールしていた気がする。

 ちなみにそんなこと言う男子は、女子にはモテていなかったと思う。


 アンヌ・ヴィアゼムスキーは昨年亡くなったけど、ゴダールって、まだ存命なんだよね。アザナヴィシウス監督がコミカルに撮っていたのはよく分かった。デモに参加するたびに、眼鏡割っちゃうとか。どこまで実話か分からないけど、当時のゴダールが面倒くさい奴だったということは伝わってきた。

 ラストに流れた音楽が「勝手にしやがれ」の「New York Herald Tribune」だった!もう、劇中のダメ男が、この音楽が聞こえた途端、一気にあの天才ゴダール様に昇格。これがなかったら、ただの「自己中男」の印象が残ったままだったかも。

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 アンヌが一緒に仕事をした映画監督の一人に、フィリップ・ガレルがいる。息子のルイ・ガレルは俳優になり、本作でゴダールを演じた。

 あと「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグは、共演のジャン=ポール・ベルモンドと交流が続いていたが、ゴダールとはなかったっぽい。彼女の再婚相手である作家ロマン・ガリはドゴール主義者。映画の中でもゴダールは、自身が反ドゴール派なのを隠さなかった。その辺りも関係あるのかな。

ジーン・セバーグ - 横文字の島