横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

同義語辞典を使い倒す

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 英日/日英、仏日/日仏と色々な翻訳がありますが、共通して使う辞典があります。それは同義語辞典。産業(実務)翻訳と文芸翻訳、いずれも使います。

1:英日翻訳 英単語の意味を調べる
2:英日翻訳 日本語表現を練り上げる
3:日英翻訳 日本語を「翻訳」する 

 

1:英日翻訳 英単語の意味を調べる
 知らない単語が出てきて英和辞典をひいたものの、意味が分かりにくいという場合、英英辞典をひくのも手ですが、パッと意味をつかみたいという時に、英語の同義語辞典をひきます。

 言い換えできる単語が出ていて、その中にはよく知ってる単語も出ているかもしれません。細かいニュアンスは違うかもしれませんが、大体の意味がつかめます。同義語辞典に出ていた単語で再度英和辞典をひくと、分かりやすい説明が書いてあることも。

 特にイギリスが顕著ですが、英語は社会階級によって言葉を使い分けます。新聞も高級紙と大衆紙では、出てくる語彙が違います。知らない単語に遭遇して辞書をひいたら、「これと同じ意味の単語でもっと簡単なやつ、学校で習ったけど」ということが珍しくありません(ちなみに仏語もそう)。

 

 仏日翻訳の場合も、同じ方法を使います。アナログもデジタルも、英和辞典はかなり充実していますが、仏和辞典はさすがにそこまで及びません。ベストと言われる小学館ロベール仏和大辞典(12万語)を持っていますが、さすがにカバーしきれない部分もあります。そんな時は、仏語の同義語辞典をひきます。

 もちろん、必要に応じて英英辞典、仏仏辞典も使いますが、パッと意味をつかむには十分です。

 

 話はそれますが、仏日翻訳の場合、仏英→英日という2段階方式もよくやります。英語以外の欧州言語の翻訳者には、珍しくないと思います。Web上の仏英翻訳サイトは昔より精度が向上しましたが、とんでもない方向へ行ってしまうこともあるので、あやしい時は同義語辞典や仏和辞典で裏付けをとります。


2:英日翻訳 日本語表現を練り上げる
 英和辞典をひいて、載っている訳語をそのまま使えるケースはあまりありません。産業翻訳ならそのまま使えることもあるかもしれませんが、文芸翻訳だと、もうひとひねり必要です。そこで、日本語の同義語辞典の出番です。

 「大体こういうことを言っている」というのが分かっても、産業翻訳であれば翻訳分野によって、文芸翻訳であれば使われているシチュエーションによって、日本語表現は変わります。もっとしっくりくる表現はないか、探します。もちろん、同義語辞典でもぴったりの表現を見つけられないこともありますが、日本語表現を練り上げる手助けになります。


3:日英翻訳 日本語を「翻訳」する
 もう一つ、日本語の同義語辞典が活躍するケースとして、日英翻訳があります。翻訳分野と文章の書き手にもよりますが、そのまま和英辞典をひいても、自然な英語表現にはなりません。そこで一度、元の日本語を英訳しやすい日本語に「翻訳」するのです。

 日本語間の「翻訳」ですが、日本人なら知っている表現でも、和英辞典に載っていないこともあります。そこで同義語辞典を使って別の表現を探してリライトし、英訳します。

 これまでの経験では、技術者と広告業界人の文章がもっとも「悪文」でした。狭~い業界(または社内や部署内)でしか通用しない、社外の人が読んだらチンプンカンプンという表現が満載です。クライアントに「どういう意味ですか?」と質問したこともあります。同様に、変なカタカナ語というか和製英語も要注意です。

 翻訳はターゲット言語のネイティブが担当することが多いのですが、こういう「悪文」満載の文書は、英語ネイティブではなく日本人の翻訳者に仕事が回ってきます。日本人でも、意味をくみ取るのに困るんですけどね……('ェ')

 

 以上、同義語辞典はこんなに便利!というお話でした。