横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

犬ヶ島

犬ヶ島」Isle of Dogs
監督:ウェス・アンダーソン
2018年 アメリカ・ドイツ映画 

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<あらすじ>
今から20年後の日本・ウニ県メガ崎市では、“ドッグ病”という犬の伝染病が流行している。ヒトへの蔓延を防ぐため、小林市長は飼い犬から野良犬まですべて「犬ヶ島」に移送することを決定し、養子であるアタリ少年の護衛犬スポッツが追放第1号に選ばれてしまう。意を決したアタリは1人、小型飛行機で犬ヶ島に向かい、野良犬のチーフやかつて飼い犬だったレックス、キング、ボス、デュークとともにスポッツを探し始める。

 

 とにかく声優陣が豪華! ちょっとした役を大物俳優が演じていて、後でキャストを確認してびっくりした。贅沢~! ウェス・アンダーソン作品の常連エドワード・ノートンビル・マーレイも参加。

 パペットを使ったストップモーション・アニメなのだが、うーん、犬はともかく人間はあんまり可愛くないよ。日本が舞台なら、キャラデザインは日本人に任せても良かったんじゃ……。

 

 主人公の小林アタリ少年は、初めは「俺は野良犬だ」とツンケンしていたチーフとも仲良くなり、棒を投げて「取ってこい」もやらせるし、なんとお風呂にまで入れてしまう。洗ってきれいになったチーフは汚れが落ちて、”別犬”が現れる!

 物語の前振りとして、小林一族の先祖と犬をめぐる因縁があり、少年が一族の頭領を倒すという伝説が紹介される。アタリ少年はその伝説をなぞるのだ。


 ウェス・アンダーソン監督の映画は何本か見てるけど、日本好きとは知らなかった。でも、描かれる<日本>がなんかヘン。とてもヘン。

 BGMが和太鼓なのは良い。ロボット犬は、AIBOのイメージかなとも思える。でも、市長がヤ〇ザとか(背中に派手な刺青が!)、客席や市井の人々が和服姿で昭和前半の雰囲気だったり。相撲や歌舞伎、寿司を作る場面も出てくるが、日本人としては「ええー!?」な描き方。ああもう、ツッコミどころ満載だよ。あと私たち、そんなに俳句詠まないからーー!!

 こーいうのを見るにつけ、海外で上映・視聴される日本映画って、あるいは日本を描いた映画って、どーいう作品が出回ってるのか非常に気になる。あえて誇張した形で演出したんだとしても。

 以前『ホームズ、ニッポンへ行く』(ムルティ作)という本を翻訳した時(こちら)、ばっさりカットした場面があるのだけれど、それは「ばりばり昭和やんけ!」な部分。明治時代が舞台のはずなのに、昭和の任侠映画のような世界が繰り広げられて、どうしても辻つまが合わなかった。それと、俳句を詠む場面も出てきたっけ。和太鼓を聴く場面も。

 これって、海外での<日本テンプレート>なのかな。
 ものすごいデジャビュ感があったよ。


 邦題が「犬ヶ島」なので、日本の観客は桃太郎と鬼ヶ島のアレンジバージョンを想像するかもしれないが、監督はインタビューで、「20世紀のヨーロッパで起きたこと」と言っていた。つまり、ナチスドイツがユダヤ人を強制収容所へ隔離したことだ。インタビューでは、トランプ大統領の移民政策や、銃規制デモを行った高校生にも言及している。

映画「犬ヶ島」は今、世界で起きていること。ウェス・アンダーソン監督が6年間かけて込めた思い

 「犬ヶ島」には、12歳の小林アタリ少年だけでなく、小林市長に「NO!」を突きつける、勇気ある高校生活動家たちも登場する。これは、ウェス・アンダーソン流の未来への希望なのかもしれない。

 映画公開に合わせ、ユリイカ臨時増刊号で特集を組んでいる。 

 

ウェス・アンダーソン作品の中でおススメはこちら。

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 主人公サムは、小林アタリと同じく12歳。こちらは船で脱出を図る。

 

  

 

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