横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

ていだん

『ていだん』
小林聡美  中央公論新社 

ていだん (単行本)

ていだん (単行本)

 

  エッセイの名手でもある女優の小林聡美さん。彼女のエッセイはあらかた読んでいる。『散歩』では、文字通り街に飛び出して、時には散歩をしながらゲストと対談をしていたが、本書は3人で話す鼎談。俳優・女優のゲストは、わりと最近の出演作の共演者が多いかな。『読まされ図書室』で小林さんに本を勧めていた人たちも。本書の宣伝で「ゴロウ・デラックス」にも出演していたが、本にちなんで、出演者3人で鼎談という名の雑談をしていたのが面白かった。

 


 ゲストがもたいまさこさん&片桐はいりさんの回では、映画「かもめ食堂」の3人が揃った! 映画のヒット後、日本の女子たちに北欧というかフィンランドブームが起こり、ヘルシンキには日本女性が殺到し、マリメッコも人気ブランドになっていったとか。ええ、ええ、まだ実際にフィンランドまで行ってないけど、北欧好きになってしまったワタシもその一人です。美術館までマリメッコ展を見に行ったし。巻末に衣装のブランドが載っていて、この日のもたいさんの衣装もマリメッコだと判明。

 映画の中のサチエの台詞「やりたくないことをやらないだけです」が、今聞いても潔い。あー、DVD借りてこようかなー。てか、DVD買っちゃおうかなー。きっと何度も見ちゃうよ。


 落語家の柳屋小三治さんは『散歩』に引き続き登場。『散歩』の出る少し前、小林さんが大学に入って日本文化を学んでいると知り「すごいなあ」と思っていたが、小三治さんとの対談で、日本の伝統文化に興味が出てきたと話していて、ものすごく納得した記憶がある。

 本書の別の回のゲスト森下圭子さんとは、句会を開催していることも話していて、テレビの俳句番組では、沖縄に吟行していた。その時のメンバー3人も、本書にそれぞれ登場している。

 森下圭子さんはフィンランド語の通訳・翻訳者で、トーベ・ヤンソンの伝記も訳している(こちら)。海外からネットで句会に参加しているそうで、森の中でブルーベリーを摘んでいる時に小林さんから句会の誘いがあったというくだりは、想像するとすごくシュールで映画の一場面のよう。そして森下さんは、ブルーベリーの句を送ったという(見てみたいぞ)。

 海外に長く住んでいると、日本文化が恋しくなるという心理は、とてもよく分かる。もし私がずーっとフランスに滞在していたら、絶対に何か始めていたと思う。

 話はそれるが、父の従姉妹(私は会ったことがない)の一人がウェールズに嫁いでいて、ある日いきなり英語の歌集が送られてきた。というか、その歌集を見て初めて、その親戚の存在を知った。父は私に「おう、お前、これ日本語に訳してくれんか」と言ったが、無理に決まってるだろーー!! 

 せっかく私も英国には何度も行ったのだから、彼女のことはもっと早く教えてくれれば会いに行ったのに。父よりずっと年下だとはいえ、親世代でうちの一族に大学出て渡英した才媛がいたなんて、知らなかったよ。私が真似するとでも思ったのかねえ(実際、彼女の影響を受けずとも、私も海外へ出て行ったけど)。昔から短歌をたしなんでいたのかもしれないが、彼女も長くウェールズに暮らすうちに、英語短歌を始めたのかもしれない。


 東京生まれ、東京育ちの小林さんは、現在田舎暮らしに興味があるらしい。葉山に移住した大貫妙子さんや、京都に移住した本上まなみさん、科学絵本作家の甲斐伸枝さんといった方たちをゲストに呼んで話を聞いている。

 そういえば、小林さんの出演したドラマ「山のトムさん」は、都会から田舎に移住した人々の話だった(原作は戦後の物がない時代の話だが)。ドラマに出演した影響もあるのだろうか。


 大学や大学院に入学したり、対談・鼎談にチャレンジしたり、ここ数年、小林さんは新しい路線を開拓している。確か、大学へ入ったのは40代半ばの頃だ。

 最近、私と同世代の有名人が引退したり(テニスの伊達公子さん)、企業を退職したり(転職エージェントの森本千賀子さん)、身近なところではこの間会った同級生だったり、それまでやってきたことを辞めて、新しいキャリアを積んでいる。40代って、そういうお年頃なんだろうか。なんだか彼女たちの姿がまぶしい。

 

 

散歩

散歩

 

 

 

読まされ図書室 (宝島社文庫)

読まされ図書室 (宝島社文庫)