横文字の島

Ile de l'alphabet ~ ある翻訳者の備忘録

戦後日本のジャズ文化

「戦後日本のジャズ文化」
マイク・モラスキー著 青土社岩波現代文庫) 

 
 今月は、ジャズについて書こう。

 

「呑めば、都:居酒屋の東京」で、せんべろ酒場の魅力を語ってくれた著者(ジャズ愛好家にして日本文化研究者)が、本書では第二次大戦後(戦前も少々)の日本のジャズ文化を論じている。映画や文学と絡めて分析している。

 

 欧米人が独自のコミュニティを作っていた魔都・上海は、大戦前の日本人ジャズミュージシャンにとって、ジャズの本場・米国に渡るより近い、もう一つの「本場」だったという。戯曲・映画の「上海バンスキング」は未見なのだが、本書を読んで、見てみたくなった。

 

 スウィングはダンス用の音楽だったのが、ダンス向きではないビバップが登場し、やがてフリージャズの時代になっていく。その辺の流れは米国も日本も変わりはないが、ライブやレコード以外の、日本独自の文化発信手段として「ジャズ喫茶」の存在が大きかった。

  私のイメージだと、「ジャズ喫茶」って、音楽通のマスターがセレクトした名盤を、皆じっと黙って拝聴しているって感じ。かつては狭いアパートの部屋で、大音量でレコードをかけるわけにいかず(近所迷惑になる)、また、外国の珍しいレコードも若者には簡単には入手できなかった。その時代の名残らしい。これのクラシック音楽バージョンが「名曲喫茶」かな。

 

 ジャズと関わりが深い日本の小説家といえば、ジャズ喫茶を経営していた村上春樹が挙げられる。それ以外にも五木寛之倉橋由美子など、色々な作家の名前が本書で挙がっている。「あれ、この人、こんな小説書いてたんだ」と、発見があった。

 

 意外なのが、ヌーヴェル・バーグと呼ばれたフランス映画が、日本のインテリ層に当時最先端のジャズをもたらしたという事実。ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」ならマイルス・デイヴィスロジェ・ヴァディム監督の「危険な関係」ならセロニアス・モンクなど。偶然だが、どちらもジャンヌ・モローの出ている映画だ(追悼ジャンヌ・モロー - 横文字の島)。

  米国発祥のジャズがフランスを経由して、最新のスタイルで日本に入ってくるとは!

 

 そういやフランスも、戦前~戦後のパリで、面白いジャズ・シーンが展開されていた。米国から”輸入”されてきた後、独自の発展を遂げた。マヌーシュ・スウィング(要はジプシーの音楽がルーツ)の影響を受け、ジャンゴ・ラインハルトステファン・グラッペリが活躍した。

  ステファン・グラッペリの軽妙なジャズ・ヴァイオリンに初めてふれたのは、映画「五月のミル」だったことを思い出した(サントラCDも買った)。

 

 米国発のジャズは日本でもフランスでも、映画や文学といった、その国その時代の芸術と絡み合って、独自に進化を遂げたのだ。

 

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呑めば、都: 居酒屋の東京 (ちくま文庫)

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死刑台のエレベーター(完全版)

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「危険な関係」オリジナル・サウンドトラック

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